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Atsushi Kaga個展「眠っている猫に触っているとあなたがそこにいるのがわかるような気がするのです。」(-6/1)
某日。裏原宿から、
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外苑西通り方面に歩き、かなり急な階段の先に
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その空間はあった。
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Atsushi Kaga個展「眠っている猫に触っているとあなたがそこにいるのがわかるような気がするのです。」(~6/1)
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6枚の絵が創る世界
「靴を脱いで、上がっていただけます」というギャラリーのスタッフに声をかけていただき、上がりこんでみた。茶室を思わせるような空間に佇む。
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本展では6枚のキャンバスに描かれた連作のペインティングが、天然木の柱と畳で構成された設えを取り囲むように配置されます。過去のKagaの個展とは異なりそれぞれの絵画はギャラリーの壁に掛けられることはなく、複数のキャンバスは室内空間を構成する要素として組み立てられひとつの絵画的な世界を創りだします。Kagaによるとこのインスターレーションのような構想は、京都・相国寺の承天閣美術館に常設されている伊藤若冲の障壁画「葡萄小禽図床貼付」にインスピレーションを得たものだそうです。若冲のこの作品が、違い棚を含むひとつの壁にまるでインスタレーション・アートを構成するかのように描かれていることにアーティストは着目し、同様に絵画を建築的要素として配置する今回の展示を計画しました。同時にこの障壁画が本来低い目線で鑑賞されていたであろうという観点から、本展の新作では絵画の重心が西欧絵画のそれより低くなるよう6枚のキャンバス上の要素の強弱や配置を調整しています。
この低い目線の位置はKagaが「小津目線」と呼んでいるもので、小津安二郎監督の独特のカメラワークを意識したものであると説明しています。それは日本の伝統的な生活様式の中で自然に生まれた目線であり、現代の日本に置いて徐々に失われつつある様式美のひとつでもあります。
小さなものたち
足元には、小さなものたちがいた。
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かがんで、目線を落としてみる。
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彼らの目線の先には、
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同じく、小さなものの姿がある。
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何度も空間を行ったり来たりしながら、両者の関係性について思いをはせてみた。
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絵画全体に視線を向けると春から夏にかけての伸びやかな風景の中にいくつものエレメンツがゆるやかに配置されており、ひとつひとつ丁寧に描かれた季節の草花や柔らかな風の表現、象徴的な動物たちの姿に心を奪われます。
左のキャンバス二枚には洋金箔が施され光溢れる春の光景の中、ふと空を仰ぐように黒猫と狐の姿が描かれています。真ん中の2枚のキャンバスでは中空に浮かぶ猫たちが空間を繋ぎ、椿は咲き誇り、左のキャンバスには闇夜の漆黒を背景に二頭の鹿が鳴く様子が描かれ、近年のKagaの作品に何度も登場するミステリアスな狐が再び現れ、夜の帳へと姿を消してゆきます。
動物たちの仰ぎ見る視線の先には終わりのない世界の広がりが感じられ、そのほぼ中央に位置する、ここでは”deadpan(無表情)”のウサギのキャラクター、「うさっち」は、地面に低く座ったまま、花鳥風月の色合いに心を傾けながら移ろう世界の行方を静かに見守っているかのようです。伸びやかで豊かな絵画世界が普遍性を持って立ち現れる中、親密さや悲しみを含んだ繊細な物語がいくつかの神秘的な象徴を通して静かに語られてゆきます。
本展のタイトルの「眠っている猫に触っているとあなたがそこにいるのがわかるような気がするのです。」は、今その手で触れている猫の温もりと、今は触れることのできない「あなた」の存在を想像させる密やかな謎かけのようにも聞こえてきます。春から初夏にかけての風が光り薫る季節、是非本展にてKagaの提示する絵画空間を体験していただければ幸いです。
「終わりのない世界の広がり」。
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