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急な坂のその先に -崔在銀[答えのない地平](-12/14) [AWT]12

 アートウィーク東京(11/7-10)。

 巡ったギャラリーとの出逢いの記録、続き。



「かなり急な坂です」

 シャトルバスから降り立つ。スタッフの方がギャラリーの場所を示しながら「かなり急な坂ですが、大丈夫ですか」と訊ねてきた。大丈夫、と答えて、教えていただいたほうへとすすむ。

 たしかに急な坂。

 大使館が多く、カメラを出すのを控えたのだけど、振り向いて撮れば、こんな感じ。

 そこから、横にそれて坂を下った途中に、

 目的のギャラリーはあった。


深海のような静けさのなかで

 幸いなことに、来訪者はわたし一人。

 この静けさは、まるで海の底を思わせる。

壁に並ぶ10枚の写真作品「誰がために鐘は鳴る」は、精緻な珊瑚のポートレイトに17世紀のイギリスの詩人であり司祭でもあったジョン・ダンの、「瞑想録第17」の一部が添えられています。

もう一方の壁に設置されたモニターには黒い海の映像が流れ、画面には世界の海のリアルタイムの海面温度などの情報が表示されます。ビデオ作品「Glas」のその黒い画面は、海水温の上昇で珊瑚が白化し死に至る現象を冷静に映し出し、すべての生命の根源である海が危機的状況にあることを、静かに警告しています。

同上

誰かの死を知らせる鐘は、それは他ならぬ己にむけられたものなのであると、ジョン・ダンはその散文に書き記しています。世界で起こるあらゆる事物はすべて私たちに関わりを持ち、病や戦争で命が失われた時の鐘の音は、我が身の死と捉えることができます。その鐘は暗い海の中で静かに死を迎える珊瑚に鳴り響いているかのようです。

同上

 作家によって発せられた言語と非言語のメッセージを、頭のなかで反芻しながら、静寂の時間を過ごした。

明るい扉のほうへ

 気の向くままに、ギャラリー内を行き来して、

 海の底から海面を望むかのような、明るい扉のほうへ。

 目に入る木と空が、来たときと違った見えた。



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