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空白の創造 誕生あるいは消滅 -稲葉友宏[A STORY THAT YOU SEE](-8/31)

 8月某日、天王洲アイル。

 稲葉友宏 個展「A STORY THAT YOU SEE 」(-8/31)


形のない「空白」の造形

 観た瞬間に、とてもふしぎな気分に駆られる。


誕生?あるいは消滅

 作品たちそれぞれの姿には、生き物ゆえの生気が感じられるのだが、否それだからこそ、

 その中心にある「空白」から、目が離せなくなる。

 彼らは今まさに、(どこかから転送されてきたかのように)この地に誕生しているのか、その反対に消滅しかけているところなのか?

 それは定かではないけれど、そのさなかに何者かが時間のストップボタンを押し、すべてが停止した。そんな気分に駆られてくるのだ。



物語の1シーンのような

 どの作品からも目が離せないが、特に印象に残ったのは、物語の重要な1シーンを表現したかのような作品たちだ。

 例えば「約束の地へ」(2024)では

 牡鹿とともに現れ(あるいは消滅していく?)人物が、

 そして「優しさの記憶」(2024)では、

 大きな牡牛?と、フード付きのマントを纏った人物。「約束の地へ」と同一人物? それとも同じ物語の別の登場人物だろうか?


余白と想像の余地

 作家は、鑑賞者との「想像を介した関わり」を持ち続ける作品を制作しており、その試みは成功している。それは、作品そのものの物理的な「空白」であり、モチーフから生み出される「想像の余地」でもある。

 作品ジャンルは彫刻だ。鑑賞者は当然、元来の重厚な彫刻作品のイメージを重ね合わせようとする、そこに、大胆な「空白」が在るものだから、観る者は作家の意図する謎かけに参加せざるを得なくなる。

 何周か観て回りながら、そのふしぎな感覚を愉しんだ。

 そしていくら観ても、「まだ何か見落としているのではないか」、そんな後ろ髪をひかれるような思いは消えないのだ。



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