シェア
相沢ユウ
2021年1月1日 01:54
第0章:彼女と彼 そこは屋上と呼ばれる空間だった。 地表とソラを隔てるそこで、 女はその夜、夢見心地で歩いていた。 そして欄干までたどり着いた。 建物の境界線にあり鉄格子に似たそれは作り物の光を浴びて、星の見えない虚ろなソラに都会の檻を写しているよう。 やがて彼女はそれの向こう側に渡り、体重もその向こう側に預けた。 軋む欄干を握る右手だけが、そこに彼女をつなぎとめているようだ。
2021年1月1日 21:07
第1章1-1:「異世界転生しなかったので、もう少し現世でなんとかしようと思います」1-2:The other side of……1-3:その・ドス・取れっ?1-4:カニとゴミ1-5:トリのクチ、その先にあるウシのオシリ1-6:夢から醒めて1-1:「異世界転生しなかったので、もう少し現世でなんとかしようと思います」 そこは独り暮らしには少し広く見える彼のアパートの一室。 いまは真っ
2021年1月3日 00:50
1-4:カニとゴミ女1「……死ぬかと思った」男1「えっ? いやいやいや、そんなつもりは――」女1「じゃなくて、屋上で」男1「ああ……(ボソッと)でもそのつもりだったんじゃ――」女1「手を離すから」男1「えっ?」女1「手を放すから」男1「……あ、あれは、ごめんなさい……でもほら、急に変なこと言うから」女1「……変なことですか?」男1「え、あ……まぁ」女1「オンナから言うの変ですか
2021年1月4日 23:17
第2章2-1:夜に聴いたバッハの旋律のせいで、2-2:マイ・ブロークン・バレンタイン2-3:コーヒーと(シロップ、と)ハチミツ2-4:二十四の瞳と祈り2-5:『ドイルとトリニーの事件簿』2-6:We seem to be crazy?2-1:夜に聴いたバッハの旋律のせいで、 その夜はまだ仄暗い。 暗がりの中、窓の近くに液晶の僅かな灯りが見える。 彼はスマホを眺めていた。 透か
2021年1月11日 01:49
2-5:『ドイルとトリニーの事件簿』女1「あ~あ、私の人間観察力ダメダメだな~」男1「それって大事?」女1「大事だよ~! 演技のお仕事だよ? 人間観察キホンだよ分かる?」男1「なんかイラっと来たけど分かった」女1「童貞くんでもなかったもんな~」男1「(咳払い)なしてそう思ったの?」女1「コンドーム、使用済みだった」男1「言い方――」女1「箱が空いてた」男1「……はい」女1「別に
2021年1月17日 23:49
第3章3-1:その海を渡るためのSextantをさがして3-2:His Letter3-3:乳とハチミツ(リプライズ)3-1:その海を渡るためのSextantをさがして男1「ねぇ、どうしてもやらなくちゃダメ?」女1「いいじゃんやろうよ、良いモノもあるしさ。気持ちいいよ?」男1「もう一気に入れちゃおうよ」女1「ダメよ、そんな急いで入れちゃあ……」 何か機械が動く音がする。ブィーンと
2021年1月30日 23:13
3-2:His Letter『君がこの手紙を読んでいる頃、たぶん僕はもういなくなってると思う』 彼は急いで自分のコートを手に取って、しかし少し考えて窓際のほうに歩いていった。 『あの事は秘密にしておいてほしい』 そうして歩いている間に、ポケットからメガネを取り出し、かけた。 『その函にしまっておいてほしい。いつか君の人生が終わる時まで』 窓から降り注ぐネオンサインは次第に暖かい
2021年1月31日 23:45
3-3:乳とハチミツ(リプライズ) 一方で彼は歩いて欄干の前にたどり着く。 その頃には、世界は12月の夜――満天の星に覆われていた。女1「あをいめだまの 小いぬ、 ひかりのへびの とぐろ オリオンは高く うたひ」(*) 彼女が暗がりで歌っていた。 歌いながら、コートとメガネを着て明るいところへと戻ってきた。 右手にビール缶、左手にマグカップを持って。 少し幼い雰囲気と、
2021年2月1日 01:08
0-1:センとレイと僕らのシャレード 彼は思い出のその歌を歌う。男1「あかいめだまの さそり」 『先輩はおじさんには何も言わなかったようだ』男1「ひろげた鷲の つばさ」 『翌朝、みんなで帰り道を探して見つかったのは』男1「あをいめだまの 小いぬ」 『茂みの奥にあった壊れた原付と』男1「ひかりのへびの とぐろ」 『その原付で山を下りる不審な女性の目撃情報だけだった』