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BAR HOPE

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小さなBARに訪れる風変わりな客達の、お酒にまつわるショートストーリーを書いていきます。
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#ウィスキー

「BAR HOPE」

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⑥ ライターズ・ティアーズ〜

 あまりお客さんのいない日曜の夜に、龍治さんは時々ノートパソコンを抱えてやって来る。
 たとえ客が龍治さん一人だとしても、「パソコン開いてもいいですか?」と律儀に了承を得てからいつも作業を始める。
 初めの二杯ほどは珈琲だけど、そこからはスコッチやバーボンをロックで飲みつつ、キーボードの小気味いいタッチ音を店内に響かせている。
 もちろん僕からはパソコンの画面が見え

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③アイリッシュコーヒー〜

 マイルス・デイヴィスのトランペットに呼応するように、雨粒が優しく窓を叩いている。今日は朝からずっと雨で、いつもは艶があって軽やかなマダムの銀髪も曇天の空みたいにしっとりと大人しい。カウンターの中に入れた小さなパイプ椅子に座り子供のように体を揺らしながら、ライムをカットする僕と目が合うとフーッと煙草の煙を吹きかけてみせた。

「別に無理して店にいなくても、退屈なら帰って

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②ジャックダニエル〜

 カウンターの中に置いた木製のスツールに腰掛けて夜空を眺めていると、店の古い電話が鳴った。僕は慌てずに、約束の5コール目までたっぷりと待ってから受話器を取る。

「今日は席空いてるかい?」

 受話器からはいつも通り本間さんの声がして、空いてますよと僕が返事をしたら、今から二人で向かうとだけ言って、本間さんはさっさと電話を切ってしまう。この店の電話は本間さんの為にあるような

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