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暁に薮を睨む

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刀篤(かたなあつし)の厳選した詩集です。
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2022年7月の記事一覧

詩:『既知』

詩:『既知』

『既知』

カン、カン、カン、
鳴る警報機 遮断機の内へ
私の意識は脚を踏み入れた
夕焼けと開かずの踏切

カン、カン、カン、
電柱から見下してくる
一羽の大きな鴉を
私はじっと睨み付ける

カン、カン、カン、
血の匂いを嗅ぎつけて
彼奴は挑発し誘っていた
未来を待っていたのだ

カン、カン、カン、
畜生と蔑まれる彼奴等が
私たちの見立てを遥かに上回る
洞察力と明確な意図を持って

カン、カン、カ

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詩:『Alice in Paradox』

詩:『Alice in Paradox』

『Alice in Paradox』

ある朝、私の前に私が現れた。
「おはようございます、
私はあなたの幽霊です、
あなたを抹消しに来ました。
私は私の幽霊に抹消されて、
あなたの幽霊になり、
あなたを抹消しに来たのです」
こんなナンセンスな世界を、
世界が肯定する世界だから、
私は深く傷ついたのだ。

死はいつも自分の顔をして、
自分の前にやってくるそれは、
自分が自分としてしかこの世界を、

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詩:『パン屋』

詩:『パン屋』

『パン屋』

子供が病気だって
なんてことないさ
私たちが頓服薬を作って
林檎も柔くおろしてあげる

少年が凹んでたって
どうってことないさ
俺たちがギターを叩きつけて
パンクロックを聴かせてやるぜ

パン屋はただ職人然として
目前の固いパン種を熟す為
毎朝3時半から仕込みを始める

少女が飢えていたって
心配しなくていいのさ
私たちが牛乳を添えて待って行くよ
世界を柔くした食べものを

詩:『戦禍』

詩:『戦禍』

『戦禍』

"愛を注ぐ"という表現には
本質的に語弊があるものだ
家畜を肥え太らせるような
競走馬に洗脳を施すような
我が子を鞭で躾けるような

沢山の人々が殺し合って
随分あとになってから
ひょっとしたらと気付く
あれは墓穴に"死体を注ぐ"のと
違わなかったのでは?

詩:『薮睨み戦場』

詩:『薮睨み戦場』

『薮睨み戦場』

私たちが共通の礎の上に匍匐して
世界の末端として機動しているなら
鹿も自分が喰われてゆく刹那に
虎の模様を美しいと感じるか