チャック

新学期
クラス替え
教室のドアの前
心が弾む
落ち着け落ち着けと深呼吸

弾む心の意味は…

教室のドアを開け
黒板に示された自分の席に座る

何気ないクラスメイトの会話
だけど
僕の耳には言葉として入って来ない

そう
あれだ
あれが気になるのだ

キョロキョロと教室の中を見渡す

いたー!

声を必死に抑える

今年も同じクラスだ

視界の隅
映る姿

え?
ま、まさか?

目があった
じーっと見つめる眼差し

彼女が歩いて来た

ちょ、ちょ、ちょっと待って!
心の準備がぁーーー!

そんな僕の心を無視して
彼女が口を開く

「あのさぁ」
「は、はい」
「ズボンのチャック空いてるよ」
「え!え!」

一瞬にして固まる僕を、残して
彼女は笑顔で去っていった

僕の「恋」は、一瞬で凍った。

-2-
あれから、数ヶ月
僕の隣
あの日と同じ笑顔の彼女がいる。

そう、あの一件で二人の距離が
何故か縮まった。

どうやって?だって?
それは…
秘密だよ。
真似されたら困るからね 笑

ふと
彼女が何かを凝視してる。
「どした?」という僕に
「チャックがさ…」という彼女
「待て待てー!」僕は歩き出した彼女を
必死に止める
「いや…でもさ…」
「いいから、辞めろって、恥ずかしいんだぞ、女の子に言われるって!」と彼女を引き留めた。
「でもさ、でもさ」と言いながら、彼女は席に座り直した

ふーっ、僕はため息をついた

恥かしいからじゃなくて、
また、なんかのきっかけになるのが怖かったんだ。
でも、なんとか、阻止できたみたい。
良かった。

彼女はニコニコ笑いながら
ハンバーガーを口いっぱいに頬張った

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