【短歌】ハレトケ
デパートの地下一階には、所狭しと華やかなお菓子たちが立ち並ぶ。
クリームたっぷりのケーキにカラフルなマカロン、キラキラのゼリーに様々な形のチョコレート。
どのお菓子も極彩色の包みを身にまとい、私を選んでちょうだいとばかりにショーケースに肩を並べる。
ハレの日にぴったりの、甘くて可愛い贈り物。
そんなお菓子たちに目移りしながらフロアをぐるぐると周り、三周目に差し掛かろうとしたその時。
レジの向こうに、白い紙に印刷された「○○芋店」の文字。
折りたたみの長テーブルに赤い布を掛けた簡易的な陳列棚には、B5ノートほどの大きさの半透明な袋に入った芋けんぴがずらっと整列している。
これまで見てきたよそいきのお菓子たちとは違い、ひっそりと地味な佇まい。
きらきらの個包装紙もなく、ひとつの袋に無造作に詰め込まれた細長い芋たちは、ぎゅうぎゅうと窮屈そうに肩を寄せ合っている。
さっきまでデパートの地下一階をぐるぐると周っていたはずなのに、なんだかここだけスーパーの一角のようだ。
日本には、「ハレ」と「ケ」という言葉がある。
ケーキやマカロンなどの煌びやかなお菓子は、ひと口食べると舌を溶かすような甘さがいっぱいに広がり、ぐっと体温が上がるような高揚感を味わえる。
まさに、ご褒美やお祝いなど「非日常」を楽しむためのお菓子だ。
対照的に、芋けんぴはそのようなハレの舞台にはあまり登場しない。
普段のおやつとして、袋の中からガサゴソと取り出し、ポリッと齧る。
ケーキやマカロンのような目の覚めるような甘さは無いけれど、噛めば噛むほどじんわりと自然の甘みが口の中にすーっと伝わってくる。
日常に溶け込む、いわば「ケ菓子」。
袋いっぱいの芋けんぴを一本つまみ、ひと口齧る。
ポリッと小気味良い音がして、後からじんわりと優しい甘さが広がってくる。
どこか懐かしい、やみつきになる味。
黄金色の小さな延べ棒たちをひとつ、またひとつ、と私の右手が掴みとる。
人は誰でも、生きてゆくなかで「ハレ」よりも「ケ」の時間を多く過ごす。
華やかなハレ舞台を生きがいにするのも良いけれど、毎日の暮らしに寄り添う小さな喜びを噛みしめることこそ、人生に充足感を与えるのではなかろうか。