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本から展開する建築設計

 今まで建築設計を一切学んで来なかった人が、大学に入学していきなり「設計してみろ」と言われてもできる訳がありません。しかし、講義の中で設計の手法について、1から具体的に教えてくれる大学は少ないのではないでしょうか。学生が多い分、抽象的な設計のあらすじをぼんやりパワポで教える程度にならざるを得ない現状があると思います。学生1人にかけられる時間も限られていますからね。

 今回は、そんな入学したての大学生の誰もができる、なかなか進まないエスキスを本を使って進める方法を書いてみたいと思います。

 これは、現在建築学科の4年生である自分が、いつも設計課題を進めるためにやっていた方法です。この方法を通していたことで、いつも有意義なエスキスを行うことができていたと思っています。実際、この手法でエスキスした時の教授の反応は、いつも良かったように思います。(笑)

設計を学ぶ上で欠かせない本

 まず、初めて建築の設計をする人はどんな手順で進めていくのかが、わからないと思います。そんな人に、私が初めに勧めたい本が

 ”初めての建築設計 ステップ・バイ・ステップ” です。

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 この本はタイトルの通り、建築を設計していく中での過程を何段階かのステップに分けて解説しており、設計をするためにまず何をして、その次に何をしなければならないかを明確にわからせてくれる内容となっています。

 特に、この本のわかりやすい点は本の中で実際に設計課題を行う学生が登場し、本編で解説されるステップに則ってエスキスをしていく点です。学生がそのステップを通して、どのように設計案を発展させているのかを目の当たりにすることで、自分が具体的にどのようなことをすれば良いかがわかってきます。

 読んでいる中で、わからない建築用語が度々出てくると思います。エスキス(エスキース)やゾーニング、スタディーといった単語は初めはわからないことでしょう。この場合のスタディーという単語の意味も、一般的に使う「勉強する」というニュアンスよりも「研究する」「調査する」といったニュアンスで使われることが多いです。この本に出てくる用語は、建築設計をしていく中で今後も使っていくであろう重要な言葉なので、教授の方に聞いてみたり、先輩に聞いてみるなりして理解してみましょう。

 教授に聞いてみるとその用語にまつわる深く面白い話が聞けることもあれば、聞いてしまったことで熱が入り何時間もその教授に捕まってエスキスをさせられるということもあるので、聞く教授は気をつけて選んでください。(笑)

 さあ、この一冊を読んだらエスキスが大体どんなものかわかることでしょう。しかし、わかると言ってもこの本でわかるのは、エスキスの基本中の基本であり、エスキスの方法は多種多様でまだまだたくさんあるのです。正直、まだ自分もやったことのないエスキスの方法の数の方が多いと思います。

 この本の通りにエスキスしていても、そこそこ形にはなるものの、「どうしてもここのゾーニングがうまくいかない」「この空間をよくする工夫が見つからない」といった壁に直面すると思います。建築は、とても難解で複雑なものなので、そうなって当然なのです。

 そこで重要なのが、工夫の仕方を見つけることなのです。

工夫の仕方

 ただ、工夫をしようとして考えても何をどのように工夫したらいいのか、具体的には見えてきません。そもそも、工夫というのはとても難しいものです。ましてや、建築というとても複雑なものの工夫なんていきなり思いつけるわけがありません。

 工夫というのは、まず、建築をそれぞれの要素・要件に分解して、それら全体を俯瞰してみて、どの要素同士がどんなふうに繋がっているか。関係しあっているかがわかって初めて、関係を利用した工夫というのができるのです。そうしないと、局所的に見て、ここに工夫を施せるかも!と思っても全体的に見たら、その工夫のつじつまが合わなくなっているということが複雑ゆえに起こります。

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 設計の始めたては、要素・要件を俯瞰的に見ることが難しいと思います。というより要件は、課題などであれば条件として決められているものだけでなく、自分で考えて要件を見出してく必要があり、自分でどんな要件を見出していけるかがとても重要となります。それが工夫にも繋がってきたりもして、自分で考える要件というのが直接、設計の腕前を決めることとなるのです。

 僕自身、設計をするなかで要件出しをする時に、決定的な要件が出てこなかったり、要件同士のつながりが見えてこなかったり、形になる前の段階で頭を悩ませることが多すぎて、やる気が失せることが多々あります。

 そこで、私が提案したい方法が本から展開して考える方法です。

 ここでいう本というのは、建築や建築家にまつわる本です。

自分の好きな建築の本を探してみる

 この記事を読んでくれているのであれば、好きな建築家や知っている建築家が何人か既にいると思います。また、好きな建築や好きな空間でもいいです。それらにまつわる本を買うなり、図書館で借りるなりして手に入れて読んでみましょう。ここで重要なのが、設計する時に建築家がどんなことに目をつけて、それをどのように工夫したかに注目して読むことです。

 「どんなことに目をつけたか」というのは、つまり、視点のことです。その建築をどの視点から見ているか。視点が変わるだけで見える景色は、驚くほど変わります。例えば、小さな子供と大人の視点を比較するだけでもわかります。小さい頃は届かなかった棚が、大人になると目の高さというものを取りやすい位置の棚になる。建築設計をする上で、いろんな人の目線に立って考える、いわゆる客観視がとても重要なのです。

 次に「どのように工夫したか」。工夫しなければならない問題には、必ず問い答えがあります。どんな視点からどんな問いをこの建築家は投げかけたのか。それによる答えが、出来上がる建築を決定づけています。まずは、その問いを本の中から探し出してみましょう。建築家は、とてもおもしろい問いを投げかけていることが多いです。だからこそ、おもしろい建築が生まれるのです。

 本の中で、しっかりとした問いとして書かれていなくても、自分でどんな問いなのかを文脈から考えて見つけてみてください。そうすることで、自分で問いを見つけるコツが徐々にわかってくると思います。

 視点と問いが見つかったら、それを速攻自分の設計に使ってみましょう。

建築家の考え方を借りる

 では自分が今やっている設計だとどうか。どんなことが言えるか。まず、視点と問いを使ってみることで設計がはかどることは間違いないです。(笑) これは、ただ建築家の作品をパクっているだけなのではないかと思う人もいるかもしれませんが、それは違います。問いが同じだからと言って、答えも全く同じになるということはまずないのです。少なくとも建築を考える上では。

 建築には、それを建てる敷地があります。そして、敷地を取り巻く環境があります。環境といえば、自然環境や社会環境、時代背景も関係してくるので敷地によってそれは様々です。敷地が違う以上、同じ問いに対してでも出てくる答えは、全く違ったものになります。

 つまり、問いは同じでも建築を考える上での要件が違うのです。

 要件が似ていることはあるかもしれません。しかし、場所が違う以上異なる点は必ずあります。そんな異なる要件の中で、問いに対して工夫して自分なりの答えをとりあえず出してみてください。要件の関係性や要件に対して考えなければならないこと、これらを考えていく際に建築家が使っていた視点を使ってみてください。そうすると、新たな要件が出てくるかもしれません。

 後は、出てきた答えを形にしてみる。そして、形を見てフィードバックして、また形にする。この繰り返しです。

本から展開した作品

 ここで本から展開して設計した作品として自分の作品を例に説明してみたいと思います。

 これは、私が2年後期建築設計演習の2つ目の課題で設計した美術館です。

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 敷地は札幌の大通公園。自分はまず、敷地調査に行きました。そこで感じたことやここでやりたいと思ったことをスケッチブックにまとめていきました。これがいわゆる自分で探す要件というやつです。その時書いていたものが奇跡的に見つけられたので、とても汚くて恐縮ですが(笑)、載せておきます。

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 今は、もうまとめ方が違いますが、2年生の時はこんな感じでまとめていました。

 私が第一にやりたかったことが、のちにコンセプトにもなる「寄り道できるような美術館」でした。美術を見ることが容易で、人と美術の関係をもっと身近なものにしたいということを考えていました。しかし、そうするためにどうしたら良いかが、全くわかりませんでした。

 当時、この設計課題とは全く関係なく読んでいた本がありました。あまり利用したことがなかった大学付属の図書館へ行ってみた時に、ふと目に止まった本でした。

“図面でひもとく名建築“

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 名建築の図面から、建築家の工夫を見つけ出すための問いを各作品ごとに提示してくれるとてもおもしろく勉強になる本です。しかし、そんなことが書いているとは露知らず、ただ表紙が好きで手に取りました。この本の中で取り扱われている作品、サヴォア邸や落水荘など、歴史に名を残す名建築ばかりでしたが、何も知らなかった私は、ただひたすら読んでいました。

 すると、ひとつ、美術館の設計とつながる考えありました。建築には周辺環境に呼応する軸が必要である。その軸が空間同士のバランスを取る。といった感じの論説があって、この軸というのは、敷地を貫き、人が空間を行き来する道のような直線なんじゃないかと私はそのとき理解しました。

 そこで、今回の設計の敷地ではどこが軸となるのか という問いを立ててみました。その問いの答えとして、私は13区画に分かれる大通公園の中で設計敷地にだけ見られる軸を見つけ出しました。

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 上の敷地平面図を並行に二本、横向きに貫いているのが大通公園全体に見られる人の流れです。それに対して、左下から右上へ斜めに流れる人の流れがこの敷地にはありました。これは、左下にある地下鉄の駅へ向かう人の流れで、通勤通学のためにここを通る人や地下鉄を降りて観光をする人がよく通るため、このような人の流れができていました。

 私は、この人の流れを今回の軸にしてみようと思い、この軸に沿うように通路を通した設計案を提案しました。

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 斜めに大きな通路を美術館を利用する人だけでなく、通勤・通学の人も通れるようなパブリックスペースとして配置し、そして、通路を挟む形で2つに分けて常設展示の空間を配置しました。通路の中にも、展示ができるようにショーケースを配置し、人と美術の関係を近づける工夫もしています。

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 結果的に、この作品が今までで一番講評会の時の評判が良かったように思います。

この作品のプレゼンテーションボード↓


自分に合う方法を探す

 建築家が建築に対してその都度行う工夫というのは、長い時間をかけて建築について思考して、スタディを繰り返し、ようやくたどり着くものです。建築家が建築についてそれまでに考えてきた膨大な時間に対し、学生が建築について考えれる時間は本当にちっぽけなものだと思います。

 だからこそ、建築家がやっている設計の仕方を試してみることが必要だと思います。その建築家の事務所のオープンデスクに参加して、プロジェクトに参加している設計を学んでいるんだと思ってやってみる。そうすると、設計の仕方を通して、設計を学ぶことができると思います。

 とにかく、自分に合った方法に出会うことが重要です。人には得意不得意があるので、ただエスキスの方法をそっくりそのまま真似しても合わないことがほとんどです。なので、いろんなエスキスの方法をやってみて、そこから自分のオリジナルを作り上げていくことが一番いいのではないかと思います。

 今回書いたのも1つのエスキスの方法です。私が今まで試してきた方法の中で、一番汎用的で、かつ、エスキスを有意義に進めることができた方法だったので紹介させていただきました。この記事を読んでくれた方は、ぜひ実践してみてください。  

 ご清覧いただきありがとうございました。









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