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優しさという温もり

波の音が聞こえる

緑のものたちが揺れる音

そこを通る風のにおい

深呼吸するように
贅沢にすべてを取り込もうとしてみる

あぁ

ここはとても穏やかな時間が流れてる


意識を空間に漂わせて
気持ちよさに揺られて
ちょっとだけ感情がこぼれた

「ふふっ」

それは本当に自然に



「どうかした?」

私の笑いに反応したのか声をかけられた

「ううん、別になんでもないよ」

「なんでもなくないでしょ、なに?」

「んー。今が嬉しいなって思ったのかな。嬉しさがこぼれたのかも」


そう言うと、彼はとても満足そうに微笑んで

私と同じように

遠くの景色を見ては目を瞑りながら感覚を楽しんでいるようだった




いつから私はこんなに穏やかに時を過ごせるようになったのだろう

以前の私は時間に追われて
決められた行動の中で
窮屈なところに心を押し込んで
偽物の笑顔をつくって
それが生きていく正解なのだと
毎日をただ過ごしてた


求めていたはずの想いを諦めて
求めていたはずの誰かは
存在しないものだと諦めて

歩む道の先の光を諦めて
前を向くことに疲れてしまっていた



「ふふっ」

思いついて、ついこぼれてしまった


今度は隣からの言葉はなかった
代わりに気持ちの良さそうな寝息が聞こえてきた

私はその寝息に満足げな笑顔を返す



ふふっ
そうか、そうだった

そんなときに彼と出会ったんだった
彼もまた、心に抱えるものを持つ人だった
それなのに
自分の心の状態を差し置いてまで私の心配をしてきた

私が楽でいられるよう想い
私が落ち着くよう行動してくれた

私が安定すれば、それで安心できると言い
私が嬉しくなれば、それで自分も嬉しいと言った

その優しさは、私にとってとても温かく、嬉しい言葉ではあったけれど
そんなことに慣れない私は戸惑うばかりで
いつも申し訳ないような気持ちで
彼の優しさを受け止めていた

そんな私でいいと、そのままの私でいいと
なにも否定せず、すべてを肯定して
ゆっくりと、その私の戸惑いをほぐしていってくれたんだ

彼と関わる時間が増えるほど
私の萎縮した心が楽になり
いつの間にかこんなにも
私自身が穏やかになっていたんだ



「ねぇ?」

彼を見ずに景色を見ながら問いかける

「ん…うん?なに?」

こうやって必ず返事をしてくれる
だから遠慮せず、不安を怖がらず、声をかけることができるようになった

すべてが

彼の優しさにふれてから

私の楽になった心は
さらにやわらかく溶けたようになったんだ


「どうしたの?なに?」

「あのね」

「うん?」

「たくさんたくさん、ありがとうね」



彼は微笑んで

私も微笑んで


2人同じようにまた
目を瞑って意識を空間に漂わせた




繋いだ手はそのままに



*創作です

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