ステーキ肉の行方
あれはもう10年近く前のこと
クリスマスが近くなり、ジングルベルがやかまし・・・楽しい雰囲気にさせてくれるスーパーで、珍しくステーキ肉のコーナーにいました。
兄弟が多く、金銭的な余裕がなかった我が家ではステーキ肉が食卓に上がったことはありませんでした。
一生懸命働いて育ててくれた親。
部活の集まりでスポーツメーカーのベンチコートなど高価な防寒具を身に付けている親が多い中、穴が開いた場所をアップリケで隠していた安物のジャンバーに文句を言うこともなかった親に、恩返しの意味を込めてステーキを食べさせてあげたいなと思いました。
1枚1500円くらいの和牛を眺めて数10分
父に1枚、母に1枚・・・
実家にいる兄弟も食べたいって言ったら親の食べる分が減るよな・・・
そんなことを考えながら、どの肉にしようか考えていました。
よし、兄弟にも1枚ずつ安めの肉を買ってあげよう!
そう決意し、親には1枚1500円くらいの肉を、兄弟には1枚1000円くらいの肉を買うことにしました。
ステーキ肉が4枚
合計6000円以上
自分の分はありませんが親の喜ぶ顔が見たいと思い購入しました。
炭火焼きだと旨いだろうけどフライパンで焼くんだろうな。
味付けは塩胡椒?
焼肉のタレ?
わさび塩?
大根おろしで和風な感じ?
そんなことを考えずに母に「ステーキを食べてもらいたいと思ったから買ってきたよ。親父に焼いて食べさせてあげて」と伝え、肉を手渡しました。
母は『何この肉!お父さん喜ぶわ』と言いました。
「親父と母ちゃんはこの高い肉で、子供達はこっちの安い方ね」とつけ加えました。
私は一人暮らしをしていたため、肉を渡して自分の住むアパートに気持ち良く帰りました。
ステーキ肉美味しかったよって言ってもらえたら嬉しいなと思いながら、いつ食べるのかとワクワクしていました。
数日が経ちましたが親から連絡がありませんでした。
食べたかどうかわからなかったため、実家に電話をすると母がでました。
前置きなど一切せずにストレートに聞いてみました。
肉食べた?
『食べたよ。柔らかくて美味しかったよ。ありがとう』と笑顔で返答。
どうやって食べたの?味付けは?
『カレーに入れて食べたよ』
は?
『1枚ずつ焼くの面倒だからカレーに入れちゃった』
え?ステーキにして食べてって・・・
美味しかったとの言葉は聞けましたが、予想外の調理法と味付けに言葉が詰まりました。
ナイフとフォークで食べるはずが、まさかのスプーンで食べるものに。
6000円分の和牛が入ったカレーはお店で食べたらいったいいくらになるのか。
ものすごく高価なビーフカレーを食べて元気になったのなら良いかと思うようにしましたが、次は母に任せずに自分で焼いてあげようと心に決めました。