パリ・シャンゼリゼ 本日の時計屋さん (13) 昔の名前で出ています
年が明けたばかりで、去年の話をほじくり返すのも何ですが。
12月の♪ラストクリスマス🎄
週が終わりの方に近づくにつれ、何かが爆発するようにお客の数が増え、上へ下へと動き回り、息つくヒマがなくなると、6個目ぐらいまでは売ったことを覚えているけれど、それ以上は、もう数えていられなくなるような、もう一日にいったい自分が幾つの時計を売ったのか、どうでもいいような気分になってきて、まるで意識が朦朧としてくるような、いやもう時計なんか売りたくないような、客を取りすぎて心底疲れ果てた置屋の遊女が自暴自棄になるような、そんなワケのわからない状態に。
それは、夕陽のガンマンが、ピストルの弾を立て続けに打ってカラにしてしまったような、または、サムライ・ニッポンが10人斬りをやり遂げて、息をすーっと吐き出すような一瞬。
果たして、仕事納めの12月30日の朝。
いつもなら、売ったな〜、で50〜60個。
「店長、アタシ、今月は今日までにいったい何個の時計を売ったんでしょうか?」
このやや性能の悪い、油の切れたレプリカントのような女店長、老眼鏡をかけながら画面を覗き込む。
「えーっと。ひゃ、100、超えてます。」
...100超え。
姐さん、川越出身。
ならば、ここは時の鐘にあやかって本日、煩悩108ツにて終わるべしっ!
残りあと8個。
⌚⌚⌚
ここは朝からぶっ飛ばしのお取り替えWサービス。
この調子なら、軽く目標達成かっ!?
こりゃ、ただ同じ値段で取り替えるだけでなく、如何に財布の紐を緩ませてもうちっと上乗せさせて満足させて、またおいで〜。とさせるか、っちゅー上級テクニック。
- クオーツ、 ホワイトダイヤル、ローザンジュ(細長い菱形)針、クロノグラフ、ローマン表示、ローズゴールドバゼル、直径43mm、茶色革ベルト
一体何が気に入らない?
ダイヤル周りのバゼルが最近はやりのローズゴールド。あ、これですか。
「見た時はキレイで気に入ったけど、考えてみたら使いにくい。」
っていうのが理由。
「では、シンプルに同じモデルでバゼルをシルバーに変えるか、もっとシンプルな3針でオートマチックに変えちゃうか?」
色違いだと元値より安く、オートマチックだと倍値だ!
ささ、勝負っ。
「...色、変えればー、バゼルの。もっと好きかも。」
よござんす。姐さんのウデの見せどころでござんす。ここ。
倍のオートマチックが予算オーバーなら、数で勝負。願ったり。
さ、二本目イカせていただきやんす。
二本目: クオーツ、 ブラックダイヤル、ドーフィン(万年筆の剣先形)3針、ローマン表示、シルバーバゼル、直径42mm、ギローシェ装飾、薄型、黒革ベルト
「これならたった200€(ほぼ50%増し)の上乗せで全く違う二本がお楽しみ頂けますよ。」
「...んー...」
唸ってる。どーするどーする。
(だいぶ考えてた)
「この黒いのをもう一つ。やっぱり黒いのが一本あったほうがイイですよね!?。それに! 姐さん、めっちゃ気に入りました。コレ。」
お買い上げ、ありがとうございます。
108ツまで、あと6個。
⌚⌚⌚
別に売ったるでー! と構えていなくとも売れるこの時期。
もーえーわ。
ぐらいの意気込みである夕方。
目標達成まであと、一個。
これでイケれば、気持ちよ〜く仕事納めの夜が迎えられ、あ〜、今年もイキまくっちゃった、いやん♥と深い眠りにつけるはず。
そこへ、小さな男の子を連れた3人家族。どうやら時計を新調したいらしい父。
大きな体に小さなメガネ。やや口をつぼめた様な喋り方と聞いたことのある訛り。
ややっ、この舌の巻き加減は東欧系。しかし髪の色は黒く太めの腕っぷし。
接客上、客を掴むまでの時間は20秒。
早打ちガンマンが標的を見定めるかの如く、いや刺客が相手の動きをじわじわ追うかの如く。
今ここで何らかのアクションを起こさねば、108ツの煩悩達成には繋がらず。
何かしら、あまり気の進まぬ印象。
しかし残りあと一つまで来たこのタイミング。話しかけるしかないかしらん。
「何か特別な時計をお探しで?」
聞かれたからしょーがなさ気に出すスマホの写真。
「まぁ、こんなにステキなモデル、お探しなんですね。」
- クオーツ、 ブルーダイヤル、ドーフィン3針、アラビア表示2箇所、ローズゴールドバゼル、直径42mm、茶色革ベルト
思ってなくても言うのがお仕事。
「これと似たやつ他にも見せて、うん。」
しかし、出しても、見てない!?
しかも、出すと同時に他の見たがる!?
「これ3つキープしといて。他にイイのあるかもしれないから、うん。」
かもしれない!? 決まってないの!?
えー、お客さん。うち3つまでしか並べないお約束なんですけど。
理由は3つ!
・1押シ、2サブ、3ジョーカー
・防犯対策
・片付け時間節約 (忙しーんですよっ)
3にこだわるカトリック式。
しかし全く毛色の違う3つ。
一体何を求めているのか判断付きかねる選択。
しかもまだウロウロ探してる。
更に続く脈絡のない選択。
最初に出して片付けたのを、
「さっきのあれ、もっかい出して、うん。」
なにーっ!?
いかん、相手の流れに呑まれてはっ。
すでに母、息子は父一人残しとっとと何処かへドロン。
たまにお一人様楽しんでるところ、悪いんですが、ここで一度、軌道修正。
「お好みに間違いがなければ、クオーツの3針、薄型のアラビア表示、茶革のバンドでお探しなんですよな!?」
して、ダイヤルの色は!?
「ブルーがいいんだけどねー、このブルー、写真とじぇんじぇん違うじゃない、ねぇ。」
そんなの姐さんのせいじゃありませんよ、ねぇ。
写真のライティングの関係ですか!?
写真なんかいくらだって加工できるんですよ。
この寄せては返す波のようなしつこさ、人懐こそうに見せかけた瞳の奥に、さーっと吹きすさぶ冷ややかな東風。
と言うことはっ、この男バルカンのラテン人。
そしてこの粘るような強引さ加減は元共産圏。
どこの国から来たのかを聞き出すのに、
「YOUは何しにこの店へ!?」
とも聞けないので、売り文句で濁すテクニック。
「国際保証書付きですけれども、どちらのご出身で?」
これで大抵みな怪しいとも思わず返答し、
「ルーマニア」
と聞けば、
なるヘソっ!
聞いてやや落ち着くどころか、悪い予感的中、
「ノー・プロブレムっ。」
と頭を横に振り続けるしか残る術もなく。
で、また最初のチョイスに戻る。
まさにサイコロ振った双六で、
「ふりだしに戻る」
って目が出て、あっちゃー😫って時の気分だぜ。お客っさん!
しかもこれから嫁様に電話して呼びつけるかっ!
姐さん、残り時間20分。
〜戦略〜
・財布の紐が緩まないことはほぼ確実。
・嫁様を味方につける。
・一番最初に選んできたのが結局一番安価なのでそこへ上手く落ち着かせる。
嫁様、再来。
「いや〜、色々迷っちゃってね、うん。」
「迷うことないでしょう? 青いのステキだったじゃない。それに最初から決めてたんじゃないの!?」
ここはヘタに入っていかないのが正解。
「だけど、この青の色が写真とじぇんじぇん違うんだよねぇ、うん。」
「おんなじよ。いいわよ、これで。ねえ、息子ちゃん。キミも好きよねぇ(と、息子ちゃんに振る)。」
姐さんも、息子ちゃんにウインク😉
🙆🏻♂️🙆🏻♂️🙆🏻♂️
息子ちゃんOK出ましたー。
「じゃあ、コレで。お姐さんもイイって言うなら。」
イイー、イイー🙈 こんな長いの初めてー。お願いだから早くイカせてー。
さてと、やっとのお支払い。
「顧客名簿、お作り致しますので、お名前いただけますか。」
「...ホントの名前で? それともニセの名前でもイイ?」
はー🙄?
そんなにたくさんお名前おありなんすか!?
やや太めだからデップってお顔でも、なかなかイカないからピットってお顔でもありませんよね!?
「お好きなお名前で、どーぞ。」
「では、ラデュ、RADUで、うん。」
かしこまりました。
こりゃ、ルーマニア"あるある"ネームだわ。非常にポピュラー。
日本じゃ、第4位の「田中さん」に当たるぐらいに。
(ちなみに1位佐藤さん、2位鈴木さん、3位高橋さん)
本日はお買い上げ、誠にありがとうございました。🙌🙌🙌
と、送り出して自分の時計を見ると終業5分前。
ふーーーっ。
だけど今月の目標108ツ、見事ゲッチン👍
無事にお正月を迎えられそうなヨ・カ・ン。
あはん♥仕事納め。
2022年もたくさん売れますよーに🙏
それでは、また。