エスカレーターの記憶と別の何か
下りのエスカレーターに乗れないという、女の子と付き合ったことがある。上りは平気なのに。
はじめて聞いた時、冗談だと思って乗せようとしたら、トートバッグの肩紐が切れそうなほど抵抗されたので、これは本当だと思った。
「足を踏み外して落ちそうになる」
二十歳そこそこの女の子が、真顔でそう言うのだった。
だから僕は彼女と一緒に、何本もの階段を下った。特に健康にはなっていない。
ある駅に改札へ向かう長い階段(もちろん隣にはエスカレーター)があり、下り切ると右に券売機、左に折れるとパン