教授に天丼と見間違われた
私が大学に入学した頃はコロナ禍真っ只中で、まさにオンライン第一世代と呼ばれる時代だった。
そんな中で1年生の頃に配属されたゼミの教授は、ほとんどパソコンを触ることの出来ないおじいちゃん教授。
classroomの更新は全て助手に任せないと出来ないほどで、初めて会った時は、目が悪くて字が読めないからと言って、光るルーペで紙を光らせて原稿を読んでいた。ルーペって光るんだ、と思った。
そんなある時、授業の時間になってもclassroomが更新されていないことを連絡すると、助手が忘れていたらしい!指摘してきたのは君だけだ!えらい!とベタ褒めされ、私は教授に超絶気に入られることに。
1年間、ゼミ内の色んな役割を振られ続け、教授は定年を迎えて嵐のように大学を去っていった。
これで教授と過ごす日々は終わり、と思っていたのだが、教授は自宅で開いている連句会に私を誘ってくれた。
今までの卒業生の中から、特にお気に入りのメンバーを選んで呼んで開催しているらしく、そこまで気に入られてしまったか、と少し驚きつつお邪魔してみることにした。
いざ行ってみると、連句会とは名ばかりで、確かに連句はするのだけど、それより奥さんの手料理を食べたりお酒を飲んだりして語らい合う方がメインなようだった。
教授は私に「ワクチン打ったのか?ワクチン打つと身体中の穴という穴から毒素が放出されるんだぞ」と言う。
これに対して全員が「何言ってんすか?」と返したので、自分のお気に入りを集めたくせに全員から否定されてるのなんなんだよと思った。
そこで、教授は私の顔を見たことがない、とも言った。
「目が悪いから、みなみちゃんのことがぼんやりとしか見えていない」だそう。
※ちなみに私の下の名前はみなみではない。
「君の顔が見てみたいから、一度写真を撮らせてくれないか」と教授は言う。
場面が場面ならロマンティックなセリフだなと思ったが、「写真なら拡大できるから」という理由なのでそうでもない。
私はいつまでも顔を知らない相手と接するのも嫌だろうと思って、写真を撮られることを快諾した。
教授は慣れない手つきで写真を撮って、その画面をまじまじと見る。
「へえ、みなみちゃんってこんな顔してるんだ」
拡大して、じっくり見ているような間の空き方。
あまり目の前で顔を間接的に見られることがないので、少し気恥ずかしくて私は黙っていた。
すると隣に座っていた卒業生が、訝しげに教授のスマホを覗く。
そして呆れたように大きなため息をついて言った。
「先生、それ天丼ですよ」
嘘だろ。
意味が分からなくて私も画面を覗くと、本当にしっかりと天丼の写真を拡大して見ていた。
なんで?本当になんで?
私って、天丼と見分けがつかないくらい似ているのか?
これから似ている芸能人や自分を例える動物など聞かれたら、ちゃんと「天丼と見間違われたことならあります」と答えようと思う。
そんな大学時代の切ない思い出。