『もの言わぬ贖罪』 ショートショート
ごみを拾う。募金をする。ボランティア。
資格を取る。理想へ近づく。真面目に働く。
親になる。反面教師。睡眠を取る。
質素な食事。豪華な晩餐。ご褒美デザート。
健康維持。ランニング。スポーツに励む。
読書をする。乗り物に乗る。参礼する。
日々、みんな意思を持って動いてるけれど。
書き出すだけでもこんなに。生活しているだけで様々な動作がある。そんな中で、善行や愚行が繰り返され、ニュースとして刮目せよと飛び交う。
だがちょっと待った。
ただ生きていることが、何かしらの行動原理を伴っている。些細なものでさえ、もしかしたら自分ですら気づかない贖罪意識が働いているかもしれない。
見えない十字架を背負って、ランニングに励んでいるかもしれない。
ごめんなさい、と罪滅ぼしを願いながら寝床についている人も広い世の中にはいるかも。
見えている、示されている所作のすべてが、その人のありのままじゃないってこと。そんなこと当たり前だけど。でもこのシンボルがそのひと自身だ! って盲信してしまう人もいっぱいいる。違うのに、違うのに。
勝手な見定めの横行。
人間って相手を慮る思考があって言葉を巧みに操れる。たいへん思慮深くて、それでいて賢いがゆえに醜くもあるから、ほら。奥底に本心くらい簡単に隠してる。
彼、彼女がした行いのすべてが真意とは限らない。
いやもちろん、そのままだってこともある。
全部を真に受ける前に。話半分でものを聞くように、世の中を半歩下がって眺めたら、ずいぶん気が楽になる。
例えば、うんざりする、泥泥した会話。
「朝から上司の機嫌が悪くてとばっちり食らった」
「えーかわいそう最悪じゃん」
「きっと家で何かあったんだよ」
「機嫌くらい直して仕事してほしい」
その上司さん、機嫌が悪そうに見えただけかもしれないし、敢えて機嫌悪く見せてるのかもしれないし、顔を顰めなきゃいけなかった致し方がない理由があるのかもしれない。
実はめちゃくちゃ良い理由で、機嫌悪い上司を演じてるかもしれないじゃない。
『きっとどこかで言えない何かがあって、部下のためか家のために重い十字架背負いながら険しい顔して懸命に働いてる中間管理職なんだよ。黙って見届けよう』
なんて、話半分で。
余計な詮索をしない程度に物事を考えられたら。
愚痴も減って、思考が楽になると思う。
その人の行動にもほら、きっと、もの言わぬ贖罪が。
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