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掌篇集

15
詩、掌篇。または吉田悠軌さん作『一行怪談』のオマージュ。 気が向いたら続きを書く。
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#冒頭

初めから化物になることを予定されて生まれてきたのか、環境が彼をあのように歪ませてしまったか、今では分る由も無い。どこまで時間を遡ればこの結末を回避できたのだろう。予想しうる分岐点は星の数ほどあれ、然しそのどれもが醜い運命の糸に絡めとられて結局はここへ帰結するのだった。
『おろち』

君の地図帳の大西洋に、新しい島を作っておいた。いつか君がまぼろしと気付く日まで、この島は実在している。

例えば宙を泳ぐたんぽぽの綿毛が彼女の肩に乗っただとか、それで充分だった。そんな些細なきっかけが、彼に火をつけた。要は誰でもよかった。ただ、自然の成り行きにすべての運命を押し付ける。僕のせいではない。そう思いたかったのだ。
『犯行予告』

命のあることが決して幸福な訳では無いのに、彼女はいつも、失われようとする命に相まみえる度に「次はどうか末長く在りますように」と小さな声で願っていた。
『カントフネブレ』

みえないものはなかったことにする
だからきっとだめだった
さいしょからしあわせになんて
なれなかったんだった
『ホワイトアウト』

恋していたのは一瞬だった。
それはたちまちのうちに情に変わって、あとは腐って落ちていった。冷蔵庫の片隅でぶよぶよに変色したりんごのように、わたしの恋は命を終えた。
『エデン』

夜の坂道。気がつけば遠くなる街の声。聞こえるのはせわしなく回る二輪が小石をはじく音、そして弾む息。
街灯もない通りでわたしを荷台に乗せて走るあなたの背中は、途方もなく眩しかった。
『下町』

体は火照っているのに、指先と思考はいっそすがすがしいほどに冷めていた。苦しみの先に希望があるなどというのは、おとぎ話のなかの幻想だ。
『細雪』

「星って燃えているんですってね。こうして、ゆっくりと」
「それってとっても素敵なことだと思うの。わたしにはまだ、彼がほうほうと燃えている気がするのよ。ずっと目に焼き付いてね、離れないの」
『三千光年の悪夢』