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Photo by
qnimaru
背筋伸ばそうと思う
彼はこの街の市長である。しかしながら彼はまだこの街を歩いた事がない。この街で生まれた訳でもなければ育ちも違う。縁もゆかりもないこの土地で市長を務めている。そんな彼であるにも関わらずこの街の全てを知り尽くしていると言う。
「市役所は何処にありますか。」
「この街の名産品は何ですか。」
「この街が抱える課題について解決案はお持ちですか。」
質問の質に関係なく懇切丁寧に一つ一つ答えていく彼。流石は市長である。が、街の人は彼の言葉に驚愕してしまう。
「市役所は街の中心です。」
「名産品。1つに絞る事は許されません。」
「課題と捉えてはならない。抱えているのは豊かな財産だけなのです。」
丁寧さに正確性が伴わない。キャッチボールが出来ていない。ハイタッチにローキックをかましてくるのである。人々は内腿をさすりつつ後悔をした。市長を選出したのは我々市民である。責任の一端は我々にもあると。
言うまでもなく街から活気は失せていた。だから市民は待った。長い長いトンネルの出口を待った。雨にも風にも頓にも珍にも漢にも負けず、次回の市長選を待ち望んだ。
そして、その日はやって来た。発表当日。選挙カーで周る候補者は力が入っていた。それぞれが自分のマニフェストを打ち出し、この街をより良い街にしたい。発展させたい。活気のあった街にしてみせたいという思いに満ち溢れていた。
蓋を開くと市民はまたもや驚愕した。前市長が引き続き市長を務めることになったのだ。
市民は聞いた。
「再選理由は何だと思いますか。」
市長は答えた。
「私の姿勢が良かった事でしょう。」