触れる。
-2022/6/2(木)-
話がまとまって帰る流れになった時、突然「お前最近こっちはどうなん」と自分の左腕を擦りながら言われた
自傷の話をしてからも何度かK先生と2人で話してきたが1度も触れられなかったからまさか触れられると思っていなくて私は呼吸を忘れかけた
「まあ笑笑」
そうヘラヘラ笑って誤魔化す
なんとなく恥ずかしい
「まあ じゃなくて」
「心配やねんで、知ってる側としては」
心配…
そっか、心配されているのか
いつも淡々と話す先生に「心配している」と言われて少し戸惑って申し訳ない気持ちになる
「そんな…」
そんな… なんなのか
大丈夫ですも気にしないでもおかしな話な気がして飲み込み、顔の前で手を振る
「そんな やなくて」
少しだけ怒ったような先生の声
急な心配がむず痒くて私は逃げるように「もしかして今年から行事の時は半袖強制になったとかですか」と聞いた
それなら先生が急に触れてきたことも納得が行く
K先生「いや、ジャージ着ていいよ」
あらま、予想外れた
じゃあ本当にずっと先生は私のことを心配していたのかもしれない、あの日からずっと
「じゃあ長袖着てますね」と笑えば「熱中症にならないならね」と返される。それは平気。
そこから傷跡の話にどんどん踏み込まれていく
「今までどうしてたんだ?」とか
辞められてた時期と行事が上手く重なっていたり傷が浅くて跡がなかったりあるいは行事自体が中止になったりしてきたことを正直に答えた
「どこまで袖捲れるの」とか
聞かれたことがなかったから考えたことも無くて「どこまでかなあ」なんて言いながらセーターの袖を捲る
何の躊躇いもなく肘まで捲った右腕と絶対に傷を見せないように最大限の注意を払って捲る左腕
先生はじーっと私を見ながら「うわあそこまで?全然違う」「まあお前右利きやもんなあ」なんて言う
なんだか自分が実験動物になったみたいでちょっぴりおもしろい
へらりと笑うと先生は真剣な顔をして
「心配なんだよ、何度も言うけど」
「水和は前に言った家を出たものの学校に来ないって言うのはやめてなっていう約束は守ってくれてる。だから先生はその点においては先生の気持ちが伝わってるんかなってある意味安心してる」
「でもそっちは心配なんだよ」
「逆に言えば心配しかできひんねんで。先生は専門家じゃないから解決もしてあげられへんしやめやとも言えん、見守ることしかできひんねん、情けないけど」
どこが
どこが情けないんだろうか
情けないのは私なんじゃないか
心配なんだよ
何度も何度も繰り返される言葉が上手く受け取れなくて溺れそうになる
その後は家族のことを聞かれたり、先生のいち教師としての私たちへの考えを聞いたりした
私はやっぱりこの先生が好きだと思った
最後にずっとずっと聞きたかったことを聞いた
「先生はこの腕いつから知ってて、知った時に辞めさせようとか怒ろうとか思わんかったん?」
ずっとずっと聞きたかった
ずっとずっとわからなかった
何度も何度も自分が心の専門家ではないことを強調するのにどうして怒ったり泣いたり馬鹿にしたりしなかったのか、そうされて然るべきことなのに
「いつから…?もう覚えてないけど確信したのはお前が誰に聞いたんですかって言ってきた時かな」
あぁ、なんだ。その時からだったの
じゃあ先生が私に「それ(自傷)は本当なの?」と聞いた時にはもう確信されていたんだ
その上で先生は「言いたくないならノーコメントでいい」って言ってくれてたんだ
あぁ、敵わない
「なんで怒らんかったか…。怒ってなんとかなるようなもんでもないし解決されるようなもんでもないやろ?やし見守っていくしかないんかなあって思ったしこっちからとやかく言うつもりはないけど」
あぁ、本当に担任の先生がK先生で良かった
心からそう思った
私はやっぱりこの先生だったから全てを打ち明けられたし1歩未満とは言え進むために行動できたんだ
私はこの上手く形容できない気持ちを込めてそっと頷いた
「さぁ、もう7時半やで。帰ろう」
先生がそう言って立ち上がる
面談室の出口の前
K先生「あ、」
なんだろう?何かあったかな?
そう思ってきょとんとしていると不意に左腕を掴まれた
見られる!
そう思った私は咄嗟に腕を引っ込めようとした
先生は「大丈夫やから」と苦笑い
私は恐る恐る左腕を先生に委ねた
すると先生は両手で私の左腕を擦ってくれた
丁寧に、しっかりと、思いを込めた手で
そして頭をぽんぽんとして「よし」と満足げに言って扉を開けてくれた
温かさが嬉しくてほっとして思わず笑みが零れた
先生、心配と迷惑を沢山かけてごめんなさい
先生、この日があったからやっぱり諦めないでいようと思いました。またもう一回を踏み出せました
先生、私、頑張るから見放さないで
関連