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【私と本】安野モヨコさんのくいいじ

 漫画家の安野モヨコさんのエッセイ本。

 久しぶりにこの本を手に取って開いたら、2006年の連載と書いてあって驚いた。15年も前の本だとおもわなかった。作家の中には年齢や年月を感じさせない方がときどきいるとおもう。

 文藝春秋に連載していた、食べものエッセイ。上下2巻に分かれていて、単行本が出てすぐに購入したとおもう。函入りで、その図案も、色も、タイトル文字も、表紙の紙質と色、書体、手触り、挿絵と、ぜんぶが好きだから手元に残している(たび重なる引越しでたくさんの本を手放した)。

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活版印刷を思わせる見出し

 以前、食べものについての描写は男性のものの方がおいしそうに感じると書いたことがあって、女性も数名挙げていたけれど安野モヨコさんを忘れていた。好きです。

 持ち運びもしやすくて気安い文庫本を愛しているけれど、この本のように凝ったつくりの本も好き。行儀が悪い話なのだけど、子どものころからずっと本を手にものを食べたり飲んだりしてきたので(主に店で)、どうしたって汚す。お風呂で読むのも常なので、濡らしたりもする。私にとっていい本、好きな本は、ヨレていて汚っこい。
 この本も、なんだかわからないシミや汚れがあちこちついている。

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 上巻の巻頭に、「安野家の隠し味」として主に調味料を写真付きで紹介するページがあって、その中に数年前に知った京都の原了郭の黒七味が載っている。これは関西の友人が送ってくれて知ったもので、私もとても気に入った。同じ友人が好む千鳥酢もみえる。
 下巻の巻頭で紹介されているのは「お気に入りの器」。有次をここで知り、ガラスの器に興味が湧いた。

 うちの母は調味料や食器にこだわっていなかったから、新鮮におもえた。といってもこれは母に対する悪口ではなく、うちの母にはそんな余裕がなかっただけ。店の食器や調度品はきれいにしていた。銀のものや銅製のポットなど暇があれば磨いていたし、ガラスケースの中も珍しい器具や美しい食器を飾っていた。店を閉めて家に帰れば子どもたちのごはん。出来合いを好まない人なので、ほとんどをイチから作っていた。とてもそんなまねはできない。食器などに文句をつけていられないくらい、私は母を尊敬している。

 話が横道にそれた。

 過去に読んだ漫画や、他にも例えば映画やドラマ、小説や自身の体験のうち、食べものにまつわるものの記憶力がいいというか、その点をやたら憶えているのなどには共感するけれど、それに加えて彼女の感性には驚かされた。初めて読んだとき、下巻にあるように春の山や太陽の味を想像しているのにはついていけなかった。くいいじが及ばなかった。いまになって、それらと味を、風味や香り、手触りを結び付けてイメージするという感覚が少しわかるようになったなという気もする。
 クリエイティブなひとって、こういうところで我々(主に私)とは違ったすてきな感性をもっているのだろう。人に伝える手段として、絵と文のどちらも才能があるあたりも羨ましい。

 安野モヨコさんの漫画も好きだけど漫画は本よりもかさばるから、手元に残っていない。久しぶりに読みたい。

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おいしそうだし、うつくしいイラスト

くいいじ(上下)

 安野モヨコさん、noteされているんですね。

 原了郭の公式ホームページ。「一子相伝」の文言にしびれる。


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