【私と本】ひとつの理想像、平賀=キートン・太一
子ども時代の話。学校が終ると、自宅とは反対方向になる店に帰っていた。母が仕事を終える19時くらいまでそこで過ごす。何をしていたかというと、店に置いてある週刊のマンガや雑誌などを読んだり、手伝い(手伝っているつもりだった)をしたりする。待っている間に眠たくなって、居眠りすることもよくあった。兄や姉と同じく自宅の鍵を与えられていたけど、学校が終るとその足で店に帰って過ごしていた。
喫茶店なので置いてあるものは少年漫画雑誌か週刊誌、ファッション誌などで、漫画雑誌ではジャンプやマガジンに始まりビッグコミック(オリジナル・スピリッツ)などにまで手を出した。毎日19時近くまで待つとなると、図書館で借りた本や手持ちの漫画を総動員しても時間が余るので、何度も読むことになる。週刊誌なんかもパラパラとめくって読んでいたが、母に何か言われた記憶はない。宿題をしていた記憶もほとんどない。
その頃に好きになった作品のひとつがこの「MASTERキートン」である。後に大人気となった「MONSTER」や「20世紀少年」などよりも私にとっては今もMASTERキートンがぶっちぎりの一番だ。
主人公の平賀=キートン・太一は考古学者であり元SASのサバイバル教官であり、更にもうひとつ大手保険会社ロイズの下請け保険調査員(探偵のようなもの)という、いくつもの顔を持っている。穏やかな顔つきや人なつっこさ、うまいもの好きで好奇心が旺盛なところが好きなところ。また見た目からは想像できないほどの洞察力や観察力に優れたふるまいも素晴らしい。
物語の舞台は世界各国に及び、軍事や国際情勢の絡んだ複雑で緊張感を孕んだエピソードも多い。このあたりがまた私の外国など未知のものへの憧れを刺激する。
この作品のコミックを昔全巻揃えていた。他にも好きな本や買った本は手元において読み返して楽しんでいたけれど私の人生において引越しが多すぎて、引越しのたびにかさばる(そして重たい)本を詰めて運んで出して…という作業にくたびれてしまった。身軽な方がいい。私はある段階でほとんどの本を(モノを)手放した。手元に残したのはごく僅かである。
だから今は図書館にお世話になっている。手に入らない本や、ある程度新しいものも大抵揃えてあって、好きな時に借りて読むことができるため大変ありがたい。
紙の本が大好きで、電子書籍にはどうにも馴染めない。作家さんや出版社のためにもお金を出して買うことがとても大事なことだともおもうから胸が痛まないわけではない。だけど今のところある程度の身軽さと、たくさん本を読めるこの方式が最良となっている。
それでこのMASTERキートンも、手放してしまったけれど図書館で借りて読むことができるからうれしいではないか。
数年前に、ビッグコミックオリジナルに「MASTERキートン Reマスター」として続編が連載され、単行本1冊にまとめられている。ファンにはたまらない企画だった。
いつまでも少年のような気持ちを持ち続けている彼の周りは、ぽかぽかとしたあったかい空気に包まれているように見受けられる。こんな人に弱い。