切れ端の記録—㸅—
—3月某日。数日間にわたって、連続して火災が発生した。
火元が不自然であったため、警察は放火魔の仕業とみて捜査を進めていた。その矢先、人間に偽装したカゲが遺体で見つかった。死因は不明らしいが、その見た目から焼死であると鑑識の判断が下りた。
警察がカゲの遺体を黒い鞄のような袋に移しているところが、ブルーシートの隙間からちらりと見えた。カゲの遺体の口が開いているようにも見えた。ブルーシートの隙間はすぐに黒い靄が掛かって何も見えなくなった。最近、警察でもカゲと協力する方向に可決したらしく、カゲの事は一番カゲが理解していると踏んでいるようだった。
案の定、今回見つかった遺体の身元は、警察に協力しているカゲが割り当てた。××都△△区の裏路地に潜んでいたやつらしかった。
異名は“㸅”。㸅は連日の放火事件との関連があるため、警察も警戒していたようだが、今回遺体として発見されたことで放火事件は一段落とされた。㸅の所持品に当たるものは全て、燃え滓であったため、警察は放火事件の犯人は㸅であるという結論で纏めていた。この結論には世も納得していた。
しかし、今回警察に協力しているカゲが妙な事を言い始めた。
「連続放火事件の犯人が今回遺体で見つかったということは、カゲを狙うカゲがどこかに潜んでいる可能性が高い。他にもあたって情報を集めなければなりませんね。」
「それは、どういうことだ?」
「この㸅とやらは黒焦げだったんだぞ。おまけに所持品も燃え滓ばかりじゃないか。」
「そうだ。どう見たって焼死で片を付けてもいいんじゃないか?」
協力的なカゲの発言に対して、警察の人間は口々に言って、会議室の中がざわざわしていた。
「人間は高度な生き物だと思っていましたが、案外甘いようですね。今回、遺体で見つかった㸅は確かに焼死体のようにも見えます。しかし、㸅は元から焼けたままになった路地裏の煤を身に纏って生きているカゲです。それに、自分の燃やした場所の物を盗む習性がある。恐らく所持品の燃え滓はそれでしょう。従って、㸅の死因は焼死である、と言い切ることは難しいと言えます。それに、㸅が自分の放火した場所で自分も燃えるなんて滑稽なことにはならないでしょうしね。」
ハキハキと威勢の良い声で会議室をまた、静まり返らせた。
警察はぐうの音も出なかった。
カゲのことはカゲがよく知っている。それは事実だった。
しかし、警察はあまり納得してないようでもあった。
確かに、カゲならカゲの事を知っている、という前提であれば納得のいく主張ともとれる。しかし、警察は完全にこのカゲを信用しているわけではない。このカゲが信用できるカゲであるか、判断はまだ保留と言ったところだろうか。
「ところで、上からの命令とは言え我々に説明なしとはどういう事ですか?誰なんです?そちらの女性と言い、あなたと言い。」
少し不満足そうな顔をしながら刑事の薄暮が言った。
「ああ、申し遅れました。私は嵬、自分で言うのもなんだが比較的人間には好意的なカゲの者です。以後お見知りおきを。」
嵬はそう言って、頭に載せていたハットを胸に当ててお辞儀をした。
「ほら、君も挨拶しなさい。」
「…私の名は熈熈と申します。嵬と同じく、カゲの者です。」
人間たちはだんまりだった。
無理もないだろう、近頃のカゲ目撃件数が増加したことを機に、無差別に召集された警察の人間たちによって特別捜査班が形成されていたのだ。
「あなた方は何故、人間である私たちに歯向かうのかお聞かせ願えますか?」その特別捜査班の上官に選任された小牧が口を開いた。……(欠)
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