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火曜日のよる。

3日目のカレー鍋に少しの水を足し火にかけて温まった頃合いで掬って皿に盛る。付け合わせと副菜の小鉢を冷蔵庫から取り出しラップを外す。僕のグラスと彼のコップに麦茶を注ぎ、匙と箸をテーブルに揃えたところで、リビングのソファでとアニメに夢中の彼に声を掛ける。「ご飯だよ。」 


声が耳に入るなり立ち上がるものの、顔はテレビ画面に残したまま。僕は、それを尻目に、炊飯釜をさっと洗い、空になったカレー鍋を適当に流して水を張り置く。二度目の呼びかけで、後ろ向きでのろりと動だし椅子と食卓の隙間にお尻でぐりぐり割り込んで腰を下ろす。一向にアニメを諦める気配のない彼。握り続けるリモコンをスッと抜き取りテレビを消すと、途端にぐるりと向きを変える。テーブルに並べられた皿の枚数を見て、現実に戻り「ママ、遅いね。」とポツリ。

ダイニングの暖色のライトは卓上のカレーの色味を引き立てている。

「ママね、今、仕事が忙しいの、でも、寝る前には帰ってくるよ。」

「さあ、食べよう、いただきます。」


僕がカレーを口に運ぶと間もなく彼は滔々と話しを始める。

「ねぇ、パパは、剣の王のザシアンと盾の王のザマゼンタどっちが好き? ケイシはね、ザシアンかな。」

「パパはザマゼンタだな。」

「ねぇ、レックウザとグラードンとカイオーガだったらどれが強いと思う?」

「うーん、グラードンかなぁ。」

「じゃあ、サンダーとリザードと、、、。」

「ねぇ、ケイシ、カレーを一口食べてからにしたら。」

「パパ、5たす9たす4は18だよね?」

「うん、あってるよ。」

「8たす3たす5だったら16だよね?」

「そうそう、あってるよ。どう?カレーおいしい?」

「うん、まあね。」 

「ねぇ、パパ、エヴァンゲリオンって、、」


いろいろなことを知った気になっている彼、いや、実際に知っているのかもしれない。

でもね、3日目のカレー、火曜日のよるのカレーの美味しさに気付けないのなら、なにをどれだけ知っていようと、結局のところあまちゃんに過ぎないのだよ。

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