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家族会議のテーブルにつく声かけ案
二十代後半で転職してはじめて「稟議」という文化に出会った。
稟議とは、組織の中で個人の権限では決められない事柄について、案をまとめた文書を複数の関係者で回覧し承認や決裁を得るフローのことである。
それに付随して、案件をお偉いさん方で協議する「取締役会」や契約書に印を押す「捺印」も私の世界に飛び込んできた。
そんなのあたりまえだろうにと思える、会社にとっては不可欠なフローである。大きなお金が動く決済は、私のようなペーペーではなくて、やはり責任が取れる立場の人にも承知いただく必要があるだろう。
Netflixで『地面師』を見たくらいの薄っぺらい知識で書いているが、最悪騙されたり、騙されなくても対して意味のないことにお金を注ぎ込むことになってしまうかもしれない。
そんな重要なフローを齢三十にもなって認識していないことを、おそらく周囲からは驚かれた。私自身も戦慄した。
新卒で入社した会社で、それくらい教わっておきたかった。営業だった期間が短かったからなのか、そもそもそんなフローなかったのか、前職の謎は深まるばかりである。
その初めて相対する稟議が、とても難儀だった。
余裕を持って回したいのに、その稟議の事案自体を頭出ししておくのが遅れてしまい、回覧する方々を追いかけ回してギリギリの承認。さらに稟議後、契約書に印が必要なのかもわからずドギマギしたり。
人よりリスクに対して神経質な私は、それが必要なことは重々承知している。
ただ、どうにも勝手がわからずで私にとっては頭が痛い難題である。
その難儀な稟議(なんぎなりんぎ、語呂がいい)の話を食卓で披露した。
するの、その後夫との会話の中で稟議関連語録が弾むようになった。
最近だと机を買うとか旅行に行くとか、大きい買い物をしたときに、
「取締役会開催?」とかいいながら2人でテーブルについたり、2人の了解を得るときも
「(稟議の)承認お願いします!」。
スーパーでいいお肉を買う時も、ハンコを押す仕草で決済。
今はまだ、報連相レベルの議案しかないけれど、今後の人生、大きな決断もあるだろう。家を買う、子供を持つ、今後のキャリア。2人の舟舵をどうきるかという問題は、いたるところに転がっている。
もちろん真面目な話し合いは重要だけど、どんなトピックでも深刻になりすぎるのはごめんだ。
そんなときに、「取締役会開催する?」というテーブルへのつきかたは絶妙なのではないかと思っている。