『兄が教えてくれた歌』クロエ・ジャオ~先住民の兄妹と閉ざされた荒野~
『ノマドランド』のクロエ・ジャオ監督の長編デビュー作。サウスダコタ州の先住民ラコタ族の居留地に暮らすジョニーとジャショーン兄妹の物語。高校卒業予定のジョニー(ジョニー・リディ)はこの居留地では販売が違法となっている酒の密売で金を稼いでいる。恋人のオレリア(テイラー・フラー)が弁護士を目指してL.A.の大学に進学するのと一緒に、この故郷を離れる計画だった。まだ未来がはっきりしないジョニーは、「ボクサーになりたい」と学校の先生に将来の夢を答える。妹のジャショーン(ジャショーン・セント・ジョン)はもうすぐ13歳。兄を慕っていていつも一緒にいたが、兄が恋人とL.A.に出て行くことを知り、出所したばかりの芸術家トラヴィス(トラビス・ローン・ヒル)の手伝いをするようになる・・・。
ジョニーは冒頭で白い馬に乗りながら「荒野で生きるものは凶暴な心を持つ。それを残しておかないと生き残っていけない」とモノローグで語るのが印象的。先住民の居留地は、荒野が広がっているばかりの何もない土地だ。父が家の火事で亡くなり、葬式で親戚が集まるが、9人の妻と25人もの子どもがいるという。初めて会う兄弟たち。知っている者ばかりがいる閉鎖的な土地。多くの者が酒に溺れ、雄牛乗り(ロデオ)がこの土地の人気者。ジョニーの兄は刑務所で服役している。アルコール依存と縄張り争い的なケンカ。未来に希望はない閉塞した荒野。この土地を出て行くことを決めるジョニーだったが、見知らぬ土地で仕事にうまく就けるのか、具体的な展望もない。
L.A.に行くために古い車を調達したジョニーだが、酒の密売で敵対するグループに殴られ、車は焼かれてしまう。ボクシングでノックアウトされ、恋人だったオレリア家族とも距離を感じて、ジョニーはL.A.行きをやめてしまう。「ここを離れるのは難しい。育った場所だから。」、自動車工場で働きながら、先住民の居留地で生き続けることにしたジョニー。そしてそれなりにこの地で居場所を見つけた妹のジャショーン。何もない荒野と広い広い空。いろいろな色の空があり、夜の焚き火などの炎の力強さを感じる。劇的なドラマは起きないが、静かにドキュメンタリーのように先住民の兄と妹を描く映画だ。妹のジャショーンの兄を思う寂しげな目が印象的だ。
2015年製作/94分/アメリカ
原題または英題:Songs My Brothers Taught Me
監督・脚本:クロエ・ジャオ
製作:クロエ・ジャオ、アンジェラ・C・リー モリー・アッシャー、ニナ・ヤン・ボンジョビ、フォレスト・ウィテカー
製作総指揮:メアリー・リージェンシー・ボーイズ、アンドリュー・ファイアーバーグ、マイケル・Y・チョウ
撮影:ジョシュア・ジェームズ・リチャーズ
編集:アラン・カナント、クロエ・ジャオ
音楽:ピーター・ゴラブ
キャスト:ジョニー・リディ、ジャショーン・セント・ジョン、テイラー・フラー、トラビス・ローン・ヒル、エレノア・ヘンドリックス、アイリーン・ベダード