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『憲兵と幽霊』『怒号する巨弾』『恋愛ズバリ講座』~新東宝の天知茂特集

画像『憲兵と幽霊』(C)国際放映

1947年東宝の大争議から分裂して生まれた新東宝は、1947年~1961年の14年間に800本以上の映画を製作。当初は溝口健二の『西鶴一代女』など文芸色が強かったが、1955年大蔵貢が新東宝の社長になると、「安く、早く、面白く」の大衆娯楽路線を徹底。エログロ、怪奇、怪談などカルト的人気作品もあると言われている。HDDの録画番組を整理していて、新東宝の天知茂特集があり3作品ほど見た。どれも珍品の数々で面白かった。

◆『憲兵と幽霊』

圧倒的なダークヒーロー、天知茂の悪さが凄い。憲兵の内幕ものの謀略とスパイと色欲と幽霊。波島少尉(天知茂)の好きな女、明子(久保菜穂子)が田沢伍長(中山昭二)と結婚したことを嫉妬の思いで見つめ続けるその目線の不気味さ。その女を手に入れるために、田沢伍長を軍の機密書類を盗んだ犯人にでっち上げ、自らのスパイ行為を隠蔽した上に、 妻の明子(久保田菜穂子)まで拷問にかけて(SM的な描写)、偽りの自白をさせて死刑で銃殺にする。自らの無実と呪いの言葉を吐きながら死んでいった田沢。その弟が兄の無実を晴らそうと、憲兵になって、波島の謀略を暴くというストーリー。

国賊と世間から非難され追い詰められていく未亡人の明子を助けるフリをしながら、母を病院に入れ追い詰めて自殺させ、傷心の明子に酒を飲ませて波島は手籠めにする。手に入れたはずの明子に子供が出来ると、さっさと堕ろせと捨て去る卑劣漢ぶりが凄い。謀略の片棒を担がせた部下も殺して、海に死体を捨てる。豊満な三原葉子が中国側のスパイの愛人として、波島少尉といい仲になり、大陸で一緒に逃げようとするも殺され、墓場で幽霊たちの亡霊を見ながら波島も果てる。看護師として生きていた明子と田沢(弟)は、戦争が終わってお互い生きていたら結婚しようと約束して終わる。

ダークヒーローの天知茂が主役でありながら、売国奴のスパイであり、自らの欲望のためにある家族を破滅へと追い込む。悪徳の限りを尽くすその極悪非道さ。天知茂の舐めるような冷たい目線が何度も強調される。光と影を使いながらの大げさな描写の数々。軍服と軍刀による暴力。恨みを抱いて殺された者たちの顔。そんな亡霊に悩まされて悪運も尽きる。軍隊の内幕スパイ謀略サスペンスにSM的要素と色欲に怪奇要素をぶち込んだ珍作。

1958年製作/75分/日本
英題:Ghost in the Regiment監督:中川信夫
脚本:石川義寛
企画:津田勝二
製作:大蔵貢
撮影:西本正
美術:黒沢治安
音楽:外山鶴男
キャスト:天知茂、久保菜穂子、三原葉子、中山昭二、宮田文子

◆『怒号する巨弾』

戦争末期、3人の男たちの陰謀でスパイ容疑で逮捕され獄死した父の復讐を果たすため、天知茂は3人の男たちを次々と殺していく。この映画の天知茂は復讐というまともな理由があり、その目的達成のためニヒルな笑顔で若い女を誘惑する。復讐する警視総監の娘(三ツ矢歌子)だ。ライフルの腕前を刑事である宇津井健と射撃場で競い合う場面などが前半にあり、ラストは宇津井健と天知茂は決闘で決着をつける。その決闘が、『理由なき反抗』のように車を走らせながらの男の勝負なのだ。三ツ矢歌子が見守る中で、ライフルと拳銃をそれぞれ構えながら、2台の車が左右に分かれてすれ違いながら銃を撃つ。なんとも奇妙な決闘の珍場面である。天知茂はライフルに弾を込めず、死を覚悟したものだった。手を撃たれて命は取り留めたものの、決闘後に自ら銃で命を絶つ。三ツ矢歌子が決闘前に天知茂の胸元に一輪の花を挿す。可愛らしい三ツ矢歌子とニヒルな裏の顔を持つ天知茂と正統派の宇津井健。愛と復讐をからませたサスペンスで、よく出来た物語。鈴木清順風な味わいもある

1960年製作/84分/日本
配給:新東宝
監督:石川義寛
脚本:石川義寛、藤島二郎
企画:島村達芳
撮影:中溝勇雄
美術:小汲明
音楽:渡辺宙明
キャスト:宇津井健、天知茂、三ツ矢歌子、九重京司、林寛、芝田新、浪野光夫

◆『恋愛ズバリ講座』

大蔵社長退陣後の新企画による第一作で、三部に分れたオムニバス映画。第一話『吝嗇(けちんぼ)』/三輪彰、第二部『弱気』/石川義寛、第三部『好色』/石井輝男。特に第一部の会社人間たちのロボットのような動き、早回し加工された早口のセリフなど、お金をめぐる風刺コメディで珍作。第二部は村に原子力発電所の視察にやって来た役人に間違えられる男の話。若き菅原文太が真面目で弱きな男を演じている。宴会と女たちによる性の接待の数々。第三部は、幼稚園の先生がダンスで服を脱ぎながら爆発する場面が凄い。詐欺師同士の男と女の騙し合いコメディ。

1961年製作/82分/日本
配給:新東宝
監督:三輪彰、石川義寛、石井輝男
構成:並木鏡太郎、土居通芳、小森白、曲谷守平、加戸野五郎、山田達雄
脚本:武部弘道、神谷吉彦、中村経美、北島隆、出口富雄、青野暉、柴田吉太郎、勝俣真喜治、山際永三、金谷稔
企画:笠根壮介、島村達芳、佐川滉、大西正雄
撮影:山中晋、森田守、須藤登
美術:小汲明、岩武仙史、宮沢計次
音楽:渡辺宙明
キャスト:<第一部>天知茂、小畠絹子、松原緑郎、星輝美、九重京司、御木本伸介、宮田文子
<第二部>菅原文太、池内淳子、沼田曜一、林寛、宇津井健、大空真弓、石川冷、沢井三郎、山下明子、若杉嘉津子
<第三部>三原葉子、沖竜次、浅見比呂志、魚住純子、万里昌代、嵐寛寿郎

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