『フラワーズ・オブ・シャンハイ』ホウ・シャオシェン~高級遊郭内をワンシーン・ワンカットで描く男女の愛憎~
中国文学の古典『海上花』を映画化した文芸作品。19世紀末の上海を舞台に、清朝末期の高級遊郭で繰り広げられる男と女の愛憎劇。ワンシーン・ワンカットの長回し。全編、遊郭のそれぞれの室内でワンカットで映し出されるエピソードが、フェイドイン&アウトを繰り返して羅列されていく。世紀末の高級遊郭に集う富裕な男性たちと遊女たちの世界。ジャンケン酒飲みの余興と豪華な食事、お粥やお茶、水タバコ、そしてアヘンの煙をくゆらす男たち。使用人が遊女たちの世話をし、女将が若い遊女たちを育て、管理している。豪華な調度品やアクセサリー、煌びやかな衣装、そして独特の男たちの髪型と女たちの艶やかな化粧。遊郭の外や街は一度も描かれない。外で喧嘩や火事が起きようと、騒がしい音だけで表現。カメラは遊郭の室内から一歩も出ない。カットも割らず、一方向からの撮影、緩やかな移動やパンで終始する。
広東省出身の官僚・王(トニー・レオン)もこの高級遊郭に出入りする常連客の一人。遊女の小紅(羽田美智子)と数年来の関係を持ち、身請けも考えていたが、彼女が王の気持ちに応じる気配はない。王は別の遊女・惠貞のもとにも通うようになり、小紅は不機嫌になる。羽田美智子は、広東語のセリフを吹き替えられているようだ。また、翆鳳(ミッシェル・リ-)は女将への不満から独立を計画していた。若い遊女の双玉(ファン・シュエン)はある客の正妻を夢見ていたが、その結婚話は客の口先だけだったことを知り、一緒に死のうとする騒ぎを起こす。そんな騙し、騙され合いの男と女の駆け引きと愛憎。食べ、飲み、語らい、そして身請けなどの金の話。あるとき、酔って遊郭にやって来た王は小紅が不在だったことで、小紅の部屋を扉の下から覗き見る。すると京劇役者の衣装があった。この場面だけ、ワンシーンワンカットではなく、カットが割られている。王は怒りまくり、部屋にあった調度品を次々と壊してしまう。それは王がかつて小紅に与えた美しいモノたちだった。
広州に栄転が決まってみんなに祝われる王だったが、どこか表情は浮かない。小紅を見限り、別の遊女の惠貞を娶ったのたが、その女にも裏切られたようだ。ラストは、遊郭とは別の家で役者の男と暮らす小紅の姿が映し出される。男のキセルを静かに掃除する小紅、その謎の表情で映画は終わる。
この映像から何を見て、何を感じるかは観客に委ねられている。豪華絢爛たる美しき映像。ハッキリした人物の感情は描かれない。顔のアップもないため、表情を今ひとつ読み取れない。みんな何を考えているのかよく分からないのだ。一度だけ、感情的になった王の姿が映し出されるだけだ。「あなたに捨てられたら、死んでしまいたい」と言っていた謎の女、小紅が何を考えていたのか、本当のところは誰にも分からない。アヘンの幻の煙が、ただただ男と女の間に立ちこめているだけだ。
1998年製作/121分/G/台湾・日本合作
原題または英題:海上花 Flowers of Shanghai
配給:松竹富士
監督:ホウ・シャオシェン
製作:ヤン・タンクェイ、市山尚三
製作総指揮:ホウ・シャオシェン
原作:アイリーン・チャン
脚本:チュー・ティエンウェン
撮影:リー・ピンビン、チェン・ホァイエン
編集:リャオ・チンソン
音楽:半野喜弘
キャスト:トニー・レオン、羽田美智子、ミシェル・リー、カリーナ・ラウ、ジャック・カオ、ウェイ・シャホェイ、レベッカ・パン、ファン・シュエン、伊能静、シュイ・ミン
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