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『ぼくの小さな恋人たち』ジャン・ユスターシュ~性に目覚める思春期の少年~

夭逝の映画監督ジャン・ユスターシュが自身の少年時代を投影させて描いた自伝的作品。フランス南西部の街ナルボンヌを舞台にした『サンタクロースの眼は青い』、カンヌ国際映画祭で審査員特別グランプリを受賞した『ママと娼婦』に続いての作品で、自伝的三部作と言われている。

ジャン・ユスターシュは一貫してに関する愛を表現してきた。この映画は少年時代のに対する目覚めから始まる。田舎町ペサックで暮らす13歳の少年ダニエルは優しい祖母や友人たちに囲まれて幸せな毎日を過ごしていた。聖体拝領のときに、前に並んでる美少女に興奮して股間が硬くなり、女の子に身体を押しつけてしまった体験が語られ、ドキッとする。さらに女の子を尾行したり、玩具の銃口を向けたりといった描写が田舎での悪友たちとの生活とともに淡々と描かれていく。悪友たちに「女とキスして、身体に触るのはこうやるものだ」と、電車の前の座席で見せつけられたりもする。

そしてダニエルは、ナルボンヌに住む母とスペイン人の継父のもとへ引き取られることになるのだが、金がなくて貧乏で学校にも行かせてもらえない。義父の弟のバイク店で見習いをさせられることになるのだが、ダニエルの鬱屈が溜まっていく。見よう見まねでタバコを覚え、バイク店の窓から毎日通り過ぎる若い子連れの女を見続け、路地でキスするカップルをじっと覗き見する。街の並木道は男たちが女を物色する場所だというので、そこでナンパを試みたりもする。さらに映画館で前の席の女といきなりキスしてみたり、聖歌隊のイベントで、少女の身体を触わる痴漢行為をしてみたりもする。ダニエル演じるマルタン・ローブは、幼い少年のような顔立ちなので無理して背伸びしている印象である。男が女を物色するシーンが何度も描かれ、女は男に声を掛けられるために何度もカフェの前を行き来する。男性目線の一方的な映画だ。

あるとき不良グループの仲間たちと隣町にガールハントに自転車で行く。この映画では、歩く場面とか、電車での移動や自転車での移動場面がやたらと出てくる。移動の省略がなく、その運動感を大事にしているのだろう。この隣町へナンパのために移動する場面もグループで自転車を走らせる描写が丁寧に描かれる。川の橋が壊れて渡れなくなって、年長者の二人が川に飛び込んで舟を引っ張ってくる。それに自転車を乗せて川を渡るシーンなども長々と描かれる。こういうところがこの映画の魅力になっている。そして姉妹のナンパに成功したダニエルともう一人の友人は、2組のカップルができて、ずっと田舎道を歩く。そして道路脇の草むらに寝転んで会話をし、キスをしたりする。女の子にあぶれた不良グループの男たちはすごすごと帰って行く。そんな性の目覚めから、女性を性的視線とともに見続け、ナンパをし、女性と会話が出来るようになり、キスをし、さらにその次の段階へと進もうと身体を触ろうとするが、女性に拒否される。祖母の田舎に帰ってきて、幼馴染みの女の子の胸にも触ろうとするが、拒否されて映画は終わる。

撮影はネストール・アルメンドロス。内容を書くと、性に夢中になっていく気持ち悪いガキの映画のようだが、淡々とした描写と美しい自然を捉えたカメラ、そしてあどけない少年のようなマルタン・ローブの幼さが、思春期の少年独特の性への好奇心として微笑ましく感じられる。


1974年製作/123分/フランス
原題または英題:Mes petites amoureuses
配給:コピアポア・フィルム

監督・脚本:ジャン・ユスターシュ
製作:ピエール・コトレル
撮影:ネストール・アルメンドロス
キャスト:マルタン・ローブ、イングリット・カーフェン、ジャクリーヌ・デュフランヌ

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