第16回: 代替するのは肉だけではない
2020年10月28日掲載
日本でも植物性食品が続々と発売されています。例えば、ファストフードでは植物性肉のパティを使ったハンバーガー、コンビニエンスストアでは肉まんやカレーパン、レストランではミートボールやパスタなどで、その多くは肉を代替する大豆ミートが使われています。そのためか、日本では植物性食品=代替肉=大豆ミートといったイメージが定着しつつあります。ところが海外では、だいぶ状況が異なっていて、乳にバターに卵まで登場しています。そこで今月は、世界最大の植物性食品市場である米国の現状を考察します。
米国市場は2年で28%成長
2019年、米国では新たに700の植物性食品が発売され、その数はいまや5,000品に至っています。市場拡大の背景には健康への配慮による菜食の増加だけでなく、近年の環境問題や新型コロナウイルス禍による肉食への警戒があることは、本連載で再三述べている通りです。
植物性食品の購入者の60%はフレキシタリアンという、時には魚や肉を食べるベジタリアン(菜食主義者)だという調査結果があります。その数は今や米国民の3分の1に至っており、世代別に見ると、ミレニアル世代(1981~95年生まれ)では42%が、Z世代(1996~2000年生まれ)では46%がフレキシタリアンだとする調査結果もあります。彼らのうち49%は植物性食品を「より健康的」だと考えており、食品業者はこの新しい市場への進出を加速化させているのです。若い世代の約半数が対象というのですから、企業にとっては最重要課題といえるのかもしれません。
植物性の主役、実は「乳」
日本ではもっぱら植物性肉への注目度が高まっていますが、植物性食品は肉を代替するにとどまりません。下の図で確認できるように、実は肉ではなく乳関連製品のシェアが最も大きく、中でも乳(ミルク)そのものを代替する植物乳が、肉を大きく引き離しているのです。
2019年米国の植物性食品の売上高は約49億7900万米ドル(約5,200億円)です。日本の市場でイメージすると、健康食品の通販市場と同程度で、豆腐市場の2倍の規模に当たります。日本のアイスクリーム市場も5,000億円規模ですから、日本企業にとっても無視できない大きな市場だと感じるのではないでしょうか。
植物性乳の売上高は肉の2倍以上になっています。乳の単価は肉よりも安いことを考えると、植物性乳は頻繁に購入されていると考えられ、広く普及していることが伺えます。売上成長率は、乳は14.2%、肉はその2倍以上の37.8%で成長していることからも植物性乳は一般的な商品に近づいていると考えられます。
植物性乳としては、具体的には豆乳、ライスミルク、アーモンドミルク、ココナッツミルクが知られています。牛乳よりもカロリーや脂質が低く、糖類やコレストロールを含まないため、実は古くから牛乳を代替する飲料として親しまれています。牛乳を飲むとお腹がゴロゴロするので豆乳を代わりに飲むという人も少なくないのでしょう。
米国でもネーミングはひと苦労
植物性食品は、従来から存在した代替乳や最近になって見聞きするようになった代替卵や代替チーズまで、実にさまざまな種類が登場しています。米国でも「植物性」「代替」「代用」「ミートレス」「アニマルフリー」といった文言が混在しており、メーカーも売るためのネーミングに苦労しているようです。
上の図は米国の消費者による、植物性食品の購入動機につながる文言について調査したものです。つまり「どれであれば買う気になるか」を調べたものです。上位3つは「プラント」という植物性をPRするものになっています。対して、「ベジタリアン」や「ヴィーガン」は「プラント」よりも下位にあります。調査結果では、消費者は「ベジタリアン」や「ヴィーガン」といった制限を感じる文言よりも、健康を意識させる「プラント」を好むようだとレポートしています。これは先述したように、消費者の多くはフレキシタリアンであるため、厳し目の文言には違和感があるからだと考えられます。この点について、「植物性食品=代替肉=大豆ミート」が主流になっている日本は、学べる点が多々あるのではないでしょうか。
先月の本連載では近い将来中国が植物性食の大国になる可能性を指摘しましたが、片や米国では益々広がりを見せています。2つの大国に挟まれている日本にとっては、彼らを満足させられることが、インバウンドにおける次の課題といえるでしょう。植物性食品は大豆ミートだけではない、代替肉だけではないという理解から始めることになりますが、まずは身近な食材は実は植物性ではないのか、何か活かせる方法はないのかといった点から始めてはいかがでしょうか。
掲載誌面: https://www.nna.jp/news/show/2110398