第6回: 2020年は「プラントベースド」が市民権
2019日12月25日掲載
「2019年はヴィーガン(動物性を食べない人)の年になる」。以前、このコラムでも紹介しましたが、18末に英エコノミスト誌は19年に起こる12のトレンドの一つにヴィーガン市場の急拡大を予測していました。ベジタリアン(菜食主義者)の中でも特に強い主義主張をもつヴィーガンは、時として過激に受け止められます。しかしそうした中でも今年世界中で話題になったヴィーガンは、今では日本のインバウンドにも大きな影響を与え始めています。今月はヴィーガン躍進の年となった19年を振り返り、20年を展望します。
ミシュラン星つきレストランがヴィーガン対応
今年11月、飲食業界でセンセーショナルなニュースが流れました。日本のとあるヴィーガンレストランが人気ランキングで世界一を獲得したのです。お店の名前は「菜道(さいどう)」(東京都目黒区)、ランキングを発表したのはベジタリアン・ヴィーガンのレストラン検索サービス「ハッピーカウ」です。ハッピーカウは世界500万人超のユーザーに使われていて、そのユーザーの投票により11万店舗の頂点に立ったのでした。菜道が注目されたのは、開店から僅か一年余りでの首位獲得という点もさることながら、菜道に続く日本勢が全体の26位と38位と、菜道は日本勢の中で突出しての世界一だった点です。
チャートはミシュランの星獲得数都市ランキングとヴィーガンフレンドリーな都市ランキングを並べています。ミシュランの3つ星、2つ星、1つ星の合計獲得数で世界首位は東京(230店)、2位はパリと並ぶ京都(104店)、4位は大阪です。この数字だけを見ると日本は「世界の食の都」であるといえるでしょう。
しかしヴィーガンに限ってはどうでしょうか。ヴィーガンフレンドリーな都市としては7位にアジアで唯一バンコクがラインクインしていますが、その他はすべて欧米勢です。東京も京都も大阪もここでは圏外で順位を確認できません。またヴィーガンレストランランキングではトップ10のうち8軒が欧米豪勢です。逆にミシュランの星獲得数トップ10のうち6軒はアジア勢です。ミシュランには高く評価されているのに、ヴィーガンには評価されていない。菜道の世界首位獲得を契機に、20年はミシュランで星を獲得した日本のレストランが、急拡大しているヴィーガンへの対応を始めることでしょう。
ヴィーガンはプラントベースドとして普及
菜道の料理はカジュアルな日本食が「プラントベースド(植物性由来、ヴィーガンと同意)」で提供されます。焼き鳥、蒲焼、ラーメン、ゆで卵といった本来動物由来でつくられるメニューを新たなもどき料理として提供しています。それらはベジタリアン・ヴィーガンの人たちだけでなく、ヘルシー志向の女性や胃にもたれないメニューを好む高齢者に“ゆるベジ”として人気になっているのです。
植物性由来成分だけで作られたかば焼き。表面は香ばしく、中はもちもちの食感だ=菜道提供(東京都目黒区)
ラーメンも植物性由来成分だけで作られている。濃厚な味わいが好評だ=菜道提供(東京都目黒区)
ハッピーカウで支持されているように菜道は訪日客にも人気で、欧米豪の富裕層ベジ・ヴィーガンが連日来店しています。中にはスペインから日本へ新婚旅行に来たというカップルが、朝東京に着いてからヴィーガンメニューにありつけず、菜道で夕食をとるまで何も食べられなかったという例がありました。また週に3度は食べに来るという在日米国人は「伝統的な和食もいいけど、日本で食べたいのは居酒屋メニュー。菜道ではそうしたメニューがプラントベースドで食べられる」と常連になった理由を語っていました。
プラントベースドということばを積極的に使っている企業に米国のビヨンドミート社があります。同社は今年代替肉メーカーとしては初上場を果たし、上場初日に株価が2倍に高騰するなどして話題になりました。同社の商品ラベルにはヴィーガンの代わりに「PLANT-BASED」の文字が大きくプリントされています。この新進気鋭のプラントベースド商品が来年いよいよ日本へ上陸するとのこと。20年、植物由来食品はヴィーガンではなくプラントベースドとして普及するでしょう。
中小企業もSDGs対応を迫られる
2019年にヴィーガンが躍進した背景には地球温暖化問題があるとみています。国連での演説で話題になったスウェーデンの16歳の環境活動家グレタ・トゥーンベリさんはやはりヴィーガンで、「私は動物性由来の商品は使わないし、動物性食品は食べない。倫理、環境、気候変動に配慮したいから」と述べています。彼女の発言や行動に共感する人たちは同世代の若者だけではありません。ヴィーガンチーズメーカーであるMozzaRisella社(英国)の調査によると、全世代の肉を食べる人の45%が今後肉食を減らすつもりであると答えたとのことで環境への配慮を理由に肉食を減らすのは若者だけではないことが明らかになっています。
こうした消費者のし好の変化に企業も動き始めています。世界的なESG投資(環境・社会・企業統治に配慮している企業への投資)への関心の高まりとともに日本の食品メーカーによるSDGs(持続可能な開発目標)への対応が始まっています。例えば、不二製油グループは持続可能な食システムへの転換としてプラントベースド食品に注目し、その活用による食資源不足へのソリューションを提供しています。エスビー食品は商品原料である香辛料、パーム油、紙の三つにおいて持続可能な社会の実現への貢献を打ち出しています。具体的には香辛料のフェアトレード、欧州が求める認証パーム油の使用、紙のFSC(森林管理協議会)認証紙の使用などです。
ある企業のSDGs担当者によると、「ステークホルダー(利害関係者)からの目が厳しくなってSDGs対応は避けられない。社会問題にどう取り組むのか、どういった成果を上げているのかを問われる機会が増えている」とのこと。大手企業から動き始めたSDGsへの対応は、消費者の食やライフスタイルの変化と相まって、20年は中小企業も対応を迫られるでしょう。