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2021年6月の記事一覧
【第2部22章】風淀む穴の底より (7/8)【熱量】
【目次】
【不死】←
「ご丁寧に、わざわざ天井を崩し続けていたは、これが狙いか……だが、オレな、『屈折鋼線<ジグザグ・ワイヤー>』は、オマケみたないものさ! ソイツを潰して、満足か!?」
征騎士ロックは、暗がりのなかで吠える。断続的に落下してくる高熱の瓦礫を、自分の足で回避するのが煩わしい。
加えて、熱せられた空気。温度計を持ち合わせていないため正確な数値はわからないが、噴き出た汗が、
【第2部22章】風淀む穴の底より (6/8)【不死】
【目次】
【使命】←
征騎士ロックの転移律<シフターズ・エフェクト>である『死禁錠<デス・ジェイル・ロック>』は、「錠」型のオブジェクトを生成し、それを取り付けた生物を「死ななくする」異能だ。
取り付けた錠が外れる、もしくは破壊されれば、能力も解除され、その時点で致命傷を負っていれば死に至る。
死ななくなる──この定義は言葉以上に、複雑で不明瞭だ。ロック自身、よくわかっていない。小難
【第2部22章】風淀む穴の底より (5/8)【使命】
【目次】
【生死】←
「我は炉、刀は焔、そして、鎚持ち鍛えるは──」
「……んん?」
二酸化炭素で満たした地下シェルターの最下層から、余裕の表情で戦況を見守っていたグラトニア征騎士の男──ロック・ジョンストンは、侵入者の女の朗々と吟じるような詠唱を聞く。
「──龍剣解放、『炉座明王<ろざみょうおう>』」
着流しの女の握る刀を中心に渦巻く炎が、まばゆいばかりの輝きを放つ。地下の闇を塗
【第2部22章】風淀む穴の底より (4/8)【生死】
【目次】
【鋼線】←
──ピュイッ!
男が口笛を吹く。同時に、リンカのいる部屋のロッカーや戸棚の扉が勢いよく開かれ、なかから立派な体躯の犬たちが姿を現す。軍用犬だ。
灼眼の女鍛冶は歯ぎしりしつつ、刀を構える。さらしで巻いた胸の内側が、軽く痛む。淀んだ空気は少しずつだが確実に、リンカのスタミナを奪い、身体を蝕んでいる。
「……行け! ほいさっさと、その侵入者をかみ殺すのさッ!!」
「
【第2部22章】風淀む穴の底より (3/8)【鋼線】
【目次】
【不燃】←
「ちぇ……落っこちてきてくれれば、ほいさっさと片づいたんだが。まあ、いいさ。少しばかり寿命が伸びただけなのさ」
最下層に居座る男がこれ見よがしにつぶやく悪態を、リンカは聞く。相手が息を止めていない、呼吸を必要としていない証拠だ。
──キュルキュルキュルッ!
耳障りな音が、ふたたび響く。暗闇のところどころで、わずかなきらめきが輝きながら迫ってくる。
「ぬあ……ッ
【第2部22章】風淀む穴の底より (2/8)【不燃】
【目次】
【穴蔵】←
──キュルキュルキュルッ。
背後から耳障りな音が迫り、リンカはとっさに後方をあおぎ見る。突き当たりの隔壁が、がらがらと崩れ落ちると同時に、きらり、となにかが闇のなかで閃く。着流しの女は、自分に向けられる殺気を覚える。
「ちぃ……!」
灼眼の女鍛冶は、手にした龍剣を振るう。刀身に宿る超常の炎がよみがえり、通路をふさぐように火の壁を産み出す。侵入者の命を刈り取ろうと
【第2部22章】風淀む穴の底より (1/8)【穴蔵】
【目次】
【第21章】←
「のんべんだらり……なんとも、まあ、陰気くさいところなのよな」
闇のなかに、女の声が響く。声の主は、地下施設の階段を底へ底へと向かって降りていく。照明の類は機能していない。唯一の光源は、女が手にした刀に宿る超常の炎。
ドラゴンの骨より削りだした龍剣の一振り、『炉座明王<ろざみょうおう>』という銘を与えられた刀は、火焔を操る力を持つ。持ち主のリンカは、それを松明
【第2部21章】蒸気都市の決斗 (8/8)【救済】
【目次】
【勝機】←
「あガ……ッ!?」
ジャックはうめき、身をのけぞらせながら、硬直する。濡れそぼったフリルワンピースの征騎士が、激しく雨粒のたたきつけるアパートの屋根から踏み切ることはなかった。
泥にまみれ、血のにじんだニーソックス越しに、なにかがふくらはぎへ牙を突きたてている。白銀の鱗を持つ蛇毒蛇<バジリスク>だ。
琥珀色の瞳を持つ大蛇の牙から、濃い魔力を帯びた毒液が華奢な征
【第2部21章】蒸気都市の決斗 (7/8)【勝機】
【目次】
【干満】←
「むー、ボクの推理が当たったかな。君の転移律<シフターズ・エフェクト>は時限式。月の満ち欠けと連動していて、タイムリミットが来ると自動で解除されるわけ」
蒸気都市のスラム、『街区』と呼ばれるエリア、そこに立地するボロアパートの雨に濡れた屋根のうえ。
倒れ伏す巫女装束のエルフを、破れかけのフリルワンピースの征騎士が見下ろしている。悔しげに唇をかむミナズキに対して、ジ
【第2部21章】蒸気都市の決斗 (6/8)【干満】
【目次】
【月齢】←
「ヒュゴオオォォォ……」
ジャックは、眼前のドラゴンが大きく空気を吸いこむ姿を見る。龍と戦闘するさい、もっとも警戒しなければならない攻撃である吐息<ブレス>──標準的なものであれば、灼熱の炎を照射される予備動作だ。
「やばいやばいやばい! このままだと焼き殺されるかなッ!?」
人喰い植物のツタに動きを封じられたジャックは、わめきつつ明確な命の危機を覚える。ぼろぼ
【第2部21章】蒸気都市の決斗 (5/8)【月齢】
【目次】
【発条】←
「むーっ、いったあ……」
ジャックは、ごろごろと若草のうえを転がり、翼竜<ワイバーン>や女王蜘蛛<クイーン・スパイダー>の追撃を逃れる。
空中機動に優れた有翼の魔獣と、身体の自由を奪う粘糸を分泌する巨大蟲の組み合わせは厄介だ。血と土で汚れたワンピースの征騎士は、ミナズキのほうを一瞥する。
「むー。実戦経験のなさそうな魔術師だと思って、ちょーっと、ナメてたかな……
【第2部21章】蒸気都市の決斗 (4/8)【発条】
【目次】
【閉塞】←
「ぴょーん、とッ!」
彼我の距離、およそ10メートル。銃を持っているならいざ知らず、格闘家はおろか、剣や槍の使い手であっても間合いの外だろう。
だが、ジャックにとっては話が違う。一歩で踏みこんで、なお余裕のある範囲だ。フリルスカートをはためかせながら、コンマ数秒でミナズキの眼前まで肉薄する。
「目で追えていないことが、バレバレかな! ま、魔法<マギア>の詠唱に使