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暑中お見舞い申し上げます

北海道に住む友人・なるみ(仮名)が、大阪に来ると言うので、便乗して大阪で落ち合うことにした。

なるみと会うのは約1年半ぶりだった。



彼女は大学の友人で、1年の4月の段階で既に、何年も苦楽を共にした仲間みたいに仲が良かった。
彼女は一見、細身で頭のキレるサッパリした性格の女なのだが、なかなか個性的でユーモラスなところがあり、私は彼女の友人であることを気に入っている。


大阪で何をする、という話をするまでもなく、
「ユニバに行ってみたい」となるみが言い出した。

私はその言葉に、流石に恐怖を感じた。



北海道民にはわからないかもしれないが、本来、8月にユニバへなど、行ってはいけないのだ。

何故なら、8月の大阪の外気温は、人間の身体の融点にギリギリ達するので、ふつう、1時間以上外に出ていると身体が溶け始めるのだ。
そして、トレーニングをしていない場合の基礎的な人間の融点は、女性で14歳、男性で17歳をピークに下がり始めるため、そのリスクは年齢とともに高まっていくのである。

さらに、気温が38度を超えると、背後から後頭部を殴り失神させる怪物が現れることが知られており、これに関しては全国的に毎年被害が報告されている。



こんなにも恐ろしい8月の大阪に、彼女は、「行ってみたい」と言うのだ。



「いやあ、でも、流石に暑いかも」
と、なんとか本州の暑さをなるみに伝えようとしても、
「ハンディの扇風機買った✌️」
などと気休めの対策で、「西の地獄」のひとつとして知られる8月のユニバに向かう気でいるのだ。

まったく、北海道では義務教育で「8月のユニバへ行ってはだめ」と教えていないのだろうか。 

しかし、なるみがユニバに行きたがるのも無理はないのだ。実は彼女は、ユニバーサルスタジオジャパンに一度も行った事がない。そんななか、仕事で大阪に来ることになり、友達と遊べることになるという稀有なタイミングで、ユニバに行ってみたい、と北海道民が思うのは、当然のことかもしれない、と思いはじめた。

そう思うと、もはやなるみが、すべての北海道民の希望を背負っているように見えてきた。


そうだ。

なんとしてでも私が、北海道民をユニバへの冒険へと導き、共に生還してみせようじゃないか、、、!!!


念のためなるみに遺書を書かせ、八百万の神に祈りを捧げた後、私たちは8月のユニバへと出掛けることにした。



前日、自分となるみの身体がほとんど融解し、心臓だけがユニバの路上でぴちぴちと跳ねる映像が、脳裏にちらついて心臓がドキドキと高鳴り、うまく寝られなかった。





しかし結果的に私たちは、8月のユニバーサルスタジオジャパンを、完全に楽しむ事ができたのだ。

テーマパークというのは、人が楽しむために作られているだけあり、エンターテイメント性が高く、並んでいるあいだも、思い出話や架空の民族の話などをしていたら、あっという間に時間が過ぎた。
結局、待ち時間も体感では、ほぼどのアトラクションも30分ほどだったため、融解には至らずに済んだ。日傘で後頭部を守っていたおかげで、怪物にも遭わなかった。


楽しすぎて、浮かれて風船などを購入し、門を出る頃には、ユニバに来て本当に良かった、と発案者のなるみに感謝の念まで抱いていた。



そういえば、ちょっと億劫に思うくらいの、義務教育にないリスクが楽しいということを、久しぶりに思い出していた。



ユニバを出て、新大阪で酒を飲んだあと、またね〜と、同じアパートの隣同士に住んでいたあの頃みたいに別れた。

浮かれて買った風船と一緒に、新幹線に乗ってフワフワと帰った。




私はなんとなく、離れた場所に住む友人の地域の天気予報も、iPhoneに登録している。今年は北海道でも暑い日が多いようだ。
なるみは暑さが苦手だから、時間差で溶けているかもしれない、と萎み始めた風船を見て思った。




離れて暮らす友達がいるのも、いいものである。

念のため八百万の神に、なるみや、友人らが元気でいるよう、祈っておくことにしよう。



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