マイ本棚、春の健康診断。
土曜日を含めカレンダー通りに勤務した怒涛のゴールデンウィークも過ぎ去り、ようやく休日にいつものカフェでモーニング読書が出来た。
勤務先は一応医療機関ということもあり、この日の待合室には小さい子供を連れたママさん達が、あやしながら子供の名前を呼ばれるのを待っていた。
「お大事にどうぞー。」
聞こえるかいないかくらいの声で見送ると、手を振って返してくる子供。微笑ましい光景に忙しい待合室の空間がほっこりする。これからいつまでも健やかに成長して欲しい。
さて、健やかな成長を期待しているのは私の本棚である。
読む速度より手に入れる速度の方が圧倒的に速いためなるべく書店には近づかない様にはしているが、ふと気づくと手元には新しい書籍がレシートを挟んだ状態で机の上に無造作に放られている。
うむ、これは定期的な診察が必要なようだ。
前回の正月以来となるが、本棚の定期的な観測をしながら読書の傾向を探り、健康診断をしていきたいと思う。
それでは春の健康診断スタート。
主に新潮・すばる・文藝界のバックナンバーを、気になる作家を見つけると芋づる式に遡り読んでいる。
武田砂鉄・くどうれいん・新川帆立・藤原麻里菜など、日常のちょっとした違和感を繊細な筆致で書き出している人々に魅力を感じているようだ。(なんだろうか、武田砂鉄に至っては少し回りくどいくらいが丁度いい。)
山本文緒、原田マハ、多和田葉子、川上弘美。それぞれの小説の登場人物の感情の揺れ動きを読み比べると面白い。
また、ポール・オースターなどの英米文学翻訳で有名な柴田元幸がエッセイストとしても素晴らしい文章を書くのを知れたことは今年一番の財産である。程よい栄養補給だ。
気分転換に1小節ずつ読むことが多い。
経営者と作家の二足の草鞋で活躍した堤清二(辻井喬)の人となりは、私の生き方の理想としている。多忙な業務の合間を縫って文学界を席巻したマルチな才能を、作品を通じて追っていく時間が愛おしい。
芥川賞受賞作である藤野可織「爪と目」。この作品は麻薬のような作用があるため好き嫌いが分かれると思うが、表題作のような切れ味が自分としてはしっくりくる。(という感想を持つあたり、やや薬物依存に陥っている。)
私は川上弘美作品が好きなのだが、そもそものきっかけは抱腹絶倒のWeb連載エッセイ「東京日記」。
今も連載は続いている。
なぜそこでその行動に?とか、なぜその時そう感じる?とかいつも斜め上を行くのが大変興味深い。(5/10現在の最新回の冒頭でもジムで踊っている。)
心を無にして読むこのエッセイは、日常で付いてしまった感情をすべて脱ぎ捨て、にらめっこして挑む。そしていつも負ける。
私の中では劇物に指定されているため、摂取のし過ぎに注意だ。
外出時の持ち運びはここから2〜3冊。
東畑 開人「聞く技術 聞いてもらう技術」は、臨床心理士である著者による、話を聞く小手先のスキルを学んでいる。連れションなど(!)実用的なところは今日から使えるテクニックだ。
また、今はジェイン・オースティン「傲慢と偏見」(光文社古典新訳文庫)に夢中。
19世紀のイギリス上流階級のいざこざや嫉妬からくる愛憎劇を見ていると、今も昔も大して変わらずにやらかしてるんだなと鼻で笑いそうになる。
おっと、こちらも感情が荒ぶってしまった。
安定剤の処方を先生にお願いするとしよう。
以上で診断を終わる。
◆診断結果
どうやら本棚には定期的な経過観察が必要なようだ。
純文学・ミステリーからエッセイ、文芸誌に至るまで多種多様な文章表現を目の当たりにしているあたり、栄養過多の兆候あり。
また、過激な文章表現を好む薬物依存の傾向があるため、鎮静剤として映画・旅・美術などその他の娯楽に触れることを勧める。
無論、そんな診断が下ったところで摂取を止めようとは今のところは思ってはいないが…。