読書感想 『性と芸術』 会田誠 「膨大な思考の過程」
会田誠は、アート、それも現代美術と言われる分野に興味を持たせてもらった「恩人」と、個人的に一方的に思っている。
情報誌に、ホームレスのための城のようなダンボールハウスを制作し、写真としては残っているが、実際に新宿に設置したら、どこかへ行ってしまった、というような作品への説明が載っていた。
それを読んだとき、説明し難い気持ちになって、同時にとても強い興味を持てて、それまで現代美術だけではなく、アートや美術全般に全く関心がなかったのに、急に見たくなり、それ以来、20年以上、細々とながらアートを見続けている。
その後、自分にとっては意外なことだったのだけど、辛い時ほど、アートと言われる存在に、気持ちの底の方を支えられてきたし、会田誠の作品も、個展などがあるたび、可能な限り見てきた。同時に、何冊か本も書いているアーティストでもある。
2022年秋の段階での書籍の最新作を読んだ。
作品を制作するために、これだけ膨大な思考があるのを改めて知ったし、作者本人が、これほど作品制作の過程まで明らかにするのは初めて読んだと思う。
(※これから先、女性蔑視や性暴力ではないか、と批判を浴びた「犬」という作品についての話題が中心になります。そうしたことについての拒否感がある方は、ご注意してくださるよう、よろしくお願いいたします)。
『性と芸術』 会田誠
まず、貴重だと思われるのは、1980年後半の東京藝大の雰囲気を、会田個人からの視点に限られているとはいえ、広く伝わるように、きちんと書いていてくれていることだと思う。
例えば、当時の東京藝術大学の油画科では、とにかくヌードを描いていたらしい。
そして、当時の流行もあり、絵画も描かない大学の学部生だったのだけど、大学4年生になる頃には、考えが変わった。それは、急にというよりも、さまざまなことがあった後の変化のようだった。
そして、作品「犬」につながっていく。
作品の構想
基本的に芸術関係者、特に製作者であるアーティストは寡黙な印象がある。もちろん、普段から無口ということではなくて、ただ、好きで観客としてアートを見続けてきた印象に過ぎないけれど、作品の意図を説明することは、俗な言い方だけど「カッコ悪い」と見られる業界ではないか、と思っている。
だから、今回、書物とはいえ、これだけ詳細に書くのは、相当の恥ずかしさもあったとは思うのだけど、それだけに貴重な思考の過程のはずだ。
そこからさらに、日本的であることとは何か。会田誠が感じていた日本画観などを考え、作品として完成したのが「犬」だった。
現代日本
そして、今に至るまで批判の対象になっている「犬」のモチーフについても、会田は明確に書いている。「日本画維新」を目指すとしても、そこに当時(1980年代後半)の「現代日本」を入れなければ、現代の作品にはならないはずだからだ。
その「ロリコン」には、性的な意味合いだけではなく、歴史的な必然があると、会田は考えていた。
そうした「ロリコン」は、特に世界的な基準で見れば、とても恥ずかしいことでもある。
そのことによって、現代日本の「ロリコン文化」があると会田は見立て、そして作品化していった。
私も、何度かこの作品を見たけれど、敗戦のことまで思い至るような勘の良い観客ではなかった。それでも、性的なことだけではなく、なんだかモヤモヤしていたし、その後、戦争画をテーマにしたことと、ここまで関係があるとは思わなかった。
それから30年以上が経つけれど、会田誠がいつも考え続けて作品をつくっていることは、平凡な観客にも伝わってきていると、思っている。そして、2020年代の今も、「犬」に含まれているさまざまな批評性は、有効だとも感じている。
おすすめしたい人
今回は、単純におすすめできないと思います。
興味を持ってもらっても、好き嫌いが分かれるのも、明らかでしょうし、読んだことで、強い嫌悪感を憶えてしまう可能性はあります。
それでも、アートに興味がある人。それも心地良さが目的ではなく、自分の視点や考えが変わるような作品が好きな人であれば、そうした作者の思考に触れることができるので、貴重な書籍だと思います。
ただ、これだけ作者自身が、その創作過程の思考を明らかにしてくれる文章は、滅多にないことは間違いありません。
(他にも、いろいろと書いています↓。よろしかったら、読んでもらえたら、うれしいです)。
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