タイトルでは、何が書かれているか想像ができなかった。
著書の名前も、失礼ながら、知らなかった。
読み始めても、そこには、ただ知らない世界が展開されていて、さらに読み進むと、どれだけ、自分が無知なのかを知らされるような視点が広がっていく。
そこには、エッジの効いたストーリーと、読者として動揺してしまうような描写も続いた。情報の密度が濃く、2度読んで、やっとわかったことも少なくなかった。
(※ここから先は、小説の内容にも触れます。未読の方で、何も情報に触れたくない方は、ご注意ください)。
『ジャクソンひとり』 安堂ホセ
それは、とても新しい世界に思えた。
ただ、少し考えれば、未知なのではなく、自分が無知なだけだとも思う。
それでも、展開はスピーディーで、知的に抑制もされている気配もあって、同時に、複雑さと意外性も含んでいる。
だから、自分の無知を意識させられながらも、新鮮で、やっぱり新しかった。
現代であること
例えば、ジャクソンが、動画に映っている男が、自分では、と疑いをかけられた相手の一人と会話をする場面でも、そこに登場する人間には、あるレベル以上のリテラシーや、知性が備わっているのが、わかる。
それは、やはり21世紀になって、しばらく年数を重ねた「現代」であるリアリティを感じる。
こうした微妙な緊張がずっと続くような会話の、シャープな新しさは、どこか、村上春樹がデビューしたばかりの頃、作中の会話に感じた印象と重なるような気もする。
それは、とても個人的な感想だけど、ただ、この「ジャクソンひとり」には、もっと不穏なエネルギーもありそうだから、それが、「現代」なのかもしれない、とも思う。
知らない視点
そして、黒人ミックスが主人公であり、「知らない視点」も提示される。
だけど、それを「知らない」と思えるのは、自分も傍観や無知という立場で、差別に加わっているかもしれないことを、スピード感のある展開に連れていかれるような時間の中で、すっと向き合わされる瞬間も少なくなく、そのたびに、自分の「気づいていなかった世界」の広さを知る。
例えば、アニメのことを語る場面。
例えば、親の言葉について。
例えば、当事者同士の会話に関して。
その「気づいてなかった世界」は、読者の前に鮮やかに広がる。
おすすめしたい人
新しさを感じる小説を読みたい人。
毎日が微妙に退屈な人。
違う視点に触れたい人。
もちろん、引用した部分で、少しでも興味が持てた人にも、手に取ってもらうことをおすすめします。
(こちら↓は、電子書籍版です)
(他にも、いろいろ書いています↓。よろしかったら、読んでもらえると、うれしいです)。
#推薦図書 #読書感想文 #ジャクソンひとり
#安堂ホセ #文藝賞 #芥川賞候補作
#知らない視点 #気づいていなかった世界
#新鮮 #小説 #ネタバレ