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金メダリストは、さりげなく、自分の武器を語っていた。

 すでに世界選手権でも、金メダルをとっていたから、その実力は証明していたはずだった。

 だけど、オリンピックになると、また独特の重圧があるようで、その力を発揮できなかったりする場面も多く見てきた気がする。

 単純にアスリートとしてのピークを長く保つのが難しいということかもしれないけれど、世界選手権の翌年のパリオリンピックでも、北口榛花選手は、金メダルを獲得した。

 世界選手権は、最後の1投で優勝を決めたが、今度は、最初の一投がその日の最高の記録となった。

 北口は北海道出身。幼少期は水泳やバドミントンに励み、北海道旭川東高からやり投げを始めた。日大時代の2019年、チェコへ拠点を移して飛躍した。

 チェコは男女の現世界記録保持者を輩出した、やり投げ大国の一つ。北口はチェコ西部、人口約1万1000人の田舎町へ移住。二人三脚で指導を受けるチェコ人コーチのダビド・セケラクさん(50)の妻が営むペンションの一室に暮らす。

(『産經新聞』より)

 プロフィールを読んだだけだけど、これまでとは違って、大谷翔平のように、才能が自然に備わっていて、その力を最も発揮できる場所を選ぶことにためらいがないような印象だった。

 改めて、すごい選手だったことを知った。


もぐもぐタイム

 金メダルという最高の結果を出したことで、その試合のさまざまなことまで注目された。

 競技の途中でカステラを食べていて、それは「もぐもぐタイム」などとすぐに名付けられ、もし、金メダルでなかったら非難の対象になったかもなどと思ったが、この時の姿に対して、大きな動物に例えた側が炎上するようなこともあった。

 何しろ、金メダルを、陸上のトラック・フィールド競技で、日本の女子選手では初めて獲得したのだから、とんでもない快挙なのだけど、その姿には、20世紀には盛んに使われた悲願といった表現が似合わず、それも含めて、新しい時代のチャンピオンなのだろうとも思った。

自分の武器

 競技が終わってから、テレビのインタビューなどにも登場するのだけど、その受け答えは、ナチュラルに明るい上に、当然かもしれないけれど、チェコ語も流れるように語れるらしい。

 そんな話の中で、もぐもぐタイムのことをインタビュアーが聞いた。

 おそらくは、カステラが好きとか、どこそこのものが好み、とか、そうしたプライベートなことを聞こうとしたのだろうけれど、それに対して、意図的なのか、もしくは単純にその質問に対して、自分が言いたいことを答えただけなのかわからないけれど、こうした受け答えの暗黙のルールのような、つまりは日本のテレビ的な流れとは違った言葉を並べていた。

 ---私は他の人と比べても、背中がそれるんです。だから、こうして競技場にいるときは、何か食べるときでも、背中をなるべくそる姿勢をとるようにしてます---

 それは、テレビで、金メダリストのほのぼのとした話を聞き出そうとした意図とは違っていたと思うし、この言葉もその時みていた記憶で書いているので詳細は違うかもしれないけれど、どちらにしても、自分のやり投げ選手としての特徴を語っていた。

 個人的には、物理は苦手だったけれど、それでも同じ物体だったら、長い距離を移動したあと、何かにぶつかったときは、より高いエネルギーを持って衝突することになるから、破壊力が増すのは知っていた。

 それは、サッカーの強豪チームの指導者に、同じパワーだったら、バックスイングがより高く上げたほうがキックのスピードが増すはず、という話とも重なることで、やり投げの北口選手が、他の選手よりもより遠くへやりを飛ばせるとしたら、上半身を大きくそらせることによって、やりを投げるときの動作が大きくなり、投げるまでのやりの移動距離が長くなり、スイングのスピードも増し、より強い力を伝えることができる、ということのように思えた。

 とてもシンプルだけど、おそらくはそんなに簡単にマネもできないことのようだった。ただパワーがあるから、技術が高いから、だけではなく自分の武器があるので、2023年の世界選手権に続き、パリオリンピックで金メダルを獲得できたと推測できるような話だった。

 ただ、そんなアスリートの強さの秘密のようなものを、そういう話をしていないときに、さらっと言ってしまえるところに、北口選手が、大きな舞台で力を発揮できることとも、つながっているようにも思えた。

 なんだかすごい。




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おちまこと
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