『おれに聞くの? 異端文学者による人生相談』 山下澄人 「正統な視点」
不思議な小説家、という印象があった。
山下澄人の本は気がついたら、5冊ほど読んでいるのだけど、どんな内容だった?(この質問自体が、かなり無意味だとしても)と聞かれたときに、すごく答えにくいし、その小説は読んでいると、あまりに印象が広がりすぎたり、あいまいに感じたりして、自分の力では把握しきれない、と思っている。
さらには、「保坂和志の小説的思考塾」で、配信で画面越しとはいえ、山下澄人と保坂和志が並んで話をしていると、山下は、その画面で初めて見たのだけど、そのたたずまいや語る内容が「独特」としか言いようがなく、同時に力みや構えがないので、この上なく自然な人にも思えていた。
その山下澄人が「人生相談」をしていた、というのを知り、この人に「人生相談」を頼む人もすごいと思った。同時に興味を強く持てるけれど、その内容の予想がつきにくいと最初に感じ、「人生相談」というジャンルでは、そうした感覚は久しぶりで、もしかしたら、橋本治以来かもしれない。
『おれに聞くの? 異端文学者による人生相談』 山下澄人
読む前の予想と、読み始めたあとの印象には大きなズレがあった。自分の想像力などがとても貧弱なことがわかる。なんだかすごい。
それは、最初の回答でも、伝わってくる。
“やりたい仕事とは違うことをしなくてはいけなくなりました。どうすればいいでしょう?”というような相談に対して、山下は、こう答えている。
あまり表立っては語られないような思考にも思えるが、これが、普通に本気で、自然な言葉であるように感じ、同時に、自分も何かに悩みそうになったときは、「人間という宇宙をなめてはいけない」といったことを、ふと思い出せば、何だか気持ちだけでも楽になるように感じた。
そうやって、部分的な言葉を使ったりするのも、たぶん、ダメなのかもしれないけれど、何だかすごいと思った。
前提
前出の「小説的思考塾」のなかで、保坂和志が、この「おれに聞くの?」に関して、相談者に対して、今いる場所、というか、前提が間違っていないか、といったことを問い続けているのではないか。という表現をしていたが、確かに、そんなふうにも思えてくる。
例えば、人生が順調に思えるような経過を並べた上に“自分が生きることに向いていない”といった相談をする人に対して、こうした回答をしている。(回答、というと少し違うのかもしれない、などと思ってしまう)。
相談者の悩みに対して、そこに答えるだけの内容ではなく、それらをすべて包むようで、他の場所を示すような、何だか壮大な話になったようにさえ思う。
書くことについて
そして、小説について、書くことに関しての相談も29件ある。
そのうちの1件。“小説を書く人と、書かない人の違いは?”を問う人に対して、とてもまっすぐに言葉を伝えている。
また、“小説がよくわかりません”というような悩みに対しては、すごく親切な回答をしている。
正統な人生相談
生きること、37項目。書くこと、29項目。関わること、18項目。
そうした3つのテーマに分けられての「人生相談」が、84件、この書籍の中にある。
その視点はとても広く、それぞれの悩みに思いもよらない発想を提示することで、誰かの肩の荷を下ろしてくれる。
こうした「人生相談」の本は、かなり珍しいと思う。異端文学者による人生相談、というサブタイトルも納得がいく。
その一方で、どこかの誰かの悩みに対しての回答を目にすることで、自分の悩みにも「役に立つ」といったような気持ちにもなれる、という意味では、とても「正統」な「人生相談」でもあると思った。
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