「陸路」(スピルオーバー#1)。2024.5.8~6.16。BUG -------「映像と音響の重要性」
詳しい事情はわからないのだけど、ギャラリーは場所を移すことも多い。
それは、それまでの建物が古くなったから、という理由も多いらしいのだけど、それだけなるべく安い家賃の場所を探しているから移転も多くなるのだろうか、などと勝手な想像をしてしまう。
それは場合によっては寂しい気持ちにもなるけれど、そのギャラリーが新しい場所に移ったり、それが以前よりも華やかな、もしくは便利な街に来るのは勝手な話だけど、なんだかうれしい。
リクルートという会社は、外から見ている人間の勝手なイメージだけど、ずっと少し独特な組織というイメージがあって、銀座でギャラリーを展開しているのも知っていて、だけど、なんとなくポジティブな展示が多い気がしていて、それほど多く足を運ばないままだった。自分にとってはアートというよりは、デザインに近く、ちょっとおしゃれな印象を勝手に持っていたせいだった。
それが、気がついたら、その2つのギャラリーはなくなり、その代わりというのか分からないけれど、東京駅の八重洲口近くに新しくギャラリーができたというのを知ったのは、そのギャラリーが開廊してから半年以上が経った2024年のことだった。
BUG
東京駅は、いろいろな意味で日本の真ん中なのだろうけれど、丸ビル以外には象徴的な建物が少ないイメージもあるし、なんとなく静かで、さらには、最近は工事中の場所が増えて、その変化に対して、すでについていけないような気になっている。
高いビルがいくつもできて、それは、自分が知らないだけで、グランドトウキョウサウスタワー、という場所の一階に新しいギャラリーはできていて、それはリクルートの本社があるビルということだったから、ある意味では狙いがはっきりしていて、エルメスやルイヴィトンなどハイブランドと同様に、アートによって、そのイメージをあげたい、ということなのだと思う。
ただ、駅から近いこと、おしゃれなカフェが併設されていること、自分が知らないアーティストの展示をすること、公募する賞を作って新人を発掘しようとしていること。どれも自分にとってだけではなく、幅広い層にとっても明らかにプラスなことだと思った。
こういう場所だと、自分が知らないアーティストが展示することが、逆に期待になったりもする。
この前、ここに来たのも、「特殊詐欺」というこれからを考えるときに重要なのに、あまりアートでは扱わないテーマだったので見に行って、興味深かったので、次に行ける時は行きたいと思っていた。
スピルオーバー
5月8日。大型連休が明けてから、6月16日まで「BUG」では、陸路(スピルオーバー#1)という展示が行われる。
こうしたテーマを扱うキュレーター(長谷川新)の意欲に興味が持てた。
どれだけコントロールされても、マネージメントされても、その通りにいかないのが、おそらくは人間という動物がつくる社会で、しかも、どれだけテクノロジーが発達しても、そうした誤差のようなものはできるはずで、それは、そのシステムに関わる専門家にとっては許せないことだとも想像できるけれど、そうしたことが、実は人間にとっては理不尽な部分もありながら、欠かせないことだと思っている。
何しろ、このギャラリーの名前が「BUG」なのだから、そういう意味でも、ここで開催する必然性はあるようにも感じてから、そのキュレーターも、参加するアーティストも、自分が無知のせいもあって、まったく知らない人ばかりだったけれど、それだけにちょっと楽しみになっている部分もあった。
知らなかった出来事
八重洲南口を出て、高速バスの停留所にさまざまな場所の名前を見ると、ここが駅だということを一瞬でも強目に意識して、遠いところにつながっているようなイメージがぼんやりとわくのだけど、一度来ているから、スムーズにビルの一階まで行けた。
カフェは満席です。という表示が今日も出ている。
その奥にギャラリーがあるけれど、今回は前回と違っていた。それは、ギャラリーのスペースがさらに壁で囲われ、しかも暗くなっているせいだった。そこに入るときに、スタッフに声をかけられ、作品にもみがらを使用していますので、お米のアレルギーはありますか?と聞かれた。
今はそうした配慮が必要になっているが、渡された説明がラミネート加工されたものだったので、紙のハンドアウトはありますか?と聞いたのは、できたら持ち帰りたかったのだけど、そうした要望にまで応えて持ってきてくれた。
ここはギャラリーだけど、入場者に対して、スタッフから声をかけてくれる、という意味では珍しい場所かもしれない。私が知っているギャラリーは、自分が作品を購入できるようなコレクターでないせいもあって、作品を見せていただく、といった気持ちで、ちょっと猫背気味で、そっと入って、受付に座っている人と目が合うかどうか分からない微妙な感じの時でも、会釈だけはして静かに鑑賞する、という印象だったから、それで、ここのスタッフの対応はありがたいけれど、自分が、まだ慣れていないのだろう。
バン。という大きい音。
壁の機械のようなところから、もみがらが吐き出されるように空中から、床に落ちていく。そこにもみがらがたまっている。そして、大きい音量での言葉。色が強くきれいに見える映像が壁に投影される。
床には、ミキサー車の回る部分だけのような、おそらくは畜産の飼料などに使われる機械が設置されていて、その中に音響機器が設置されているから、そこから大きい音が出てくる。
それは、どうやら東日本大震災の時、家畜である豚のエサがなくなったとき、このもみがらに関係あるようなことで、その豚が生き延びた、といったようなことと関係があるストーリーがそこで語られているようだった。
それも音響と映像が使われているから、意味が分からなくても、急に大きい音が出ると驚くし、その反応も含めて、ちょっと違う感覚になれる。
(「東日本大震災下で家畜を救った飼料米を襲う放射能、その除染は?!」)
https://agriknowledge.affrc.go.jp/RN/2010815361.pdf
この作品は、こうした事実を元にしているかもしれないけれど、そうした出来事があったことも初めて知ったし、ここでの音響と映像のおかげで印象に残った。
だから、そこにいる人にだけ伝えられるものはあるのだろうとも思った。
MESの作品だった。
映像と音響
その映像が消えて、ギャラリー内が暗くなって、それで作品が終わったと思った。
壁には、大きな画面のようなものがあって、それはずっと沈黙するように暗いままだったから、故障していて、もう見られないかと思ってスタッフに尋ねたら、あと5分後に、この映像は始まります、と言われて、それなら見ようと思って、薄暗いギャラリーの壁際に立っていた。
他には、中年男性が1人、若年女性が一人で、私も含めて3人で静かに開始を待っている。
大きい画面と、床に置かれた大きいスピーカーから音が響く。それは、ライブなどで使われそうな機械ではないかと思われるようなもので、ギャラリーなどではあまり聞かれないような巨大な音で、それは体に響くのだけど、おそらくは性能がいいせいか、きれいな音に感じる。
映像は、人の顔が加工されている。それが、いかにもデジタル的な動きと輝きがあって、基本的には気持ちがいい。それで言葉も発しているのだけど、何を言っているかは分からない。
ミュージックビデオを見ているような気持ちになってくる。そして、ずっと加工された顔が映っていて何か変化があるのだろうか。最後に無加工の顔が急に出てくるとか、あるのだろうか。そんなことを思っていたが、約7分、ほとんど映像の変化はなくて、終わった。林修平の作品。
映像と音響の質の良さがあると、実際に作品を展覧会で見る意味があると確かに思った。だけど、これだけの技術があるのだから、もうちょっと違うものも見たい気がする、などと勝手なことも思っていた。
ハンドアウトには、『動物の「駆除」に端を発する言説に関して、デスボイスによるレクチャーパフォーマンス形式の作品を発表しています』とあったのだけど、こちらの聞き取る能力の問題もあるとは思うのだけど、そうした内容だったことに全く気が付かなかった。
そうであったら、もう少し伝わるようにしてほしいと望むのは観客の未熟さなのだろうか、とも思いながら、やっぱりもう少しその言葉を知りたかった気持ちはあった。
さらには、もう一組の参加アーティスト「FAQ?」は、ZINEを作ってそれを販売するというものだったというのだけど、最初は、その媒体が、この展示に関するものだと思って、それほどちゃんと見なくて、しかも3組目の作品展示者とは思わなかったので、購入もしないで帰ってきた。
それでも、「スピルオーバー」をテーマに、今後も展示をしてくれるのならば、その時は、また行きたいとは思った。
(他にもいろいろと書いています↓。よろしかったら、読んでもらえたら、うれしいです)。
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