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「植物視力」。

 3月になると、少しずつ植物の芽が出てくる。
 茶色だった庭の柿の木に、新しい緑も見える。

 少しずつ暖かい日も増えてくると、妻が庭に出ている時間が増えてくる。

 時々、しゃがんで、何しているのかな、と思うと、たくさん芽が出てきてる、とうれしそうな表情で話をしてくれる。

 洗濯をしようとして、外へ出ると、妻に呼ばれる。

「ほら、ここ並んで、咲いてる」。

 確かに、そこに黄色い花が咲いていた。

 すごくピッタリと並んでいて、不思議だったのは、それぞれ太陽を浴びるために、もう少し離れて咲くはずなのに、と思ったりもしたのだけど、そこにあった。

 妻に名前を聞いたら、エンコウソウだった。

 聞いたことがなかったのだけど、草花に関することは、妻の口から、ウソのようにすらすらと出てきて、詳しいのは、わかっているけれど、毎回、少し驚く。

植物視力

 うちは、どちらかといえば、かなりコンパクトな庭で、しかも、まだ春というには、気温も低めで、なんとなく、地面が茶色が主流だと思っているのだけど、妻が、ほら、ここにも、と指差す先には、だいたい、小さい花が咲いている。

 妻は、小学生の頃からメガネをかけているから、視力はよくないはずで、私は老眼になってきて、細かいものは見えにくくなってきたけれど、この前、目に小さい傷がついたときに視力を測ったら、両目が1・5あった。

 それなのに、妻は的確に、とても小さく咲いている花を見つける。

「ここに、トキワソウが咲いてる」

「トキワソウ」

 え、どれ?

 言われるまで、全く見えていなかった。


「ここに、ハナニラの花が咲いてるの、知ってる?」

「ハナニラの花」

 知らない。

 そこは、洗濯をする時には、必ず視界に入っているはずの場所だったけれど、花は後ろ向きだし、何しろ、小さくて、わかってなかった。


「ここ、すみれも咲いてる」

「すみれ」

 最初は、どこにあるかわからなくて、少ししゃがんで、近くで見ると、とても小さく、あの紫の色が見えた。


 普段は、視力が良くないのだけど、植物に関しては、小さいものも、本当に見逃さない。妻は、「植物視力」が優れているのだと思う。

二つの花

 この日、最初に、ピッタリとくっついている花があって、珍しいと思い、その葉っぱのところを触っていたら、その二つの花は、少し離れた。

「エンコウソウ」

 元々は、当たり前だけど、少し距離を置いて、伸びてきたのだけど、葉っぱに抑えられるように、たまたま、二つの花がピッタリとくっつくようなことに、なっていたようだ。

 いったん、少し離れると、もう元には戻らなかった。

 この人為的な行為が良かったのか、悪かったのかは、わからないままだ。




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おちまこと
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