読書感想 『懐霄館---白井晟一の建築』 「建物の重量感が体に伝わる本」
テレビ番組「日曜美術館」で、白井晟一という建築家のことを初めて知る。
もちろん、建築界では有名で、だから、私が無知なだけだったのだけど、その番組で見ただけでも、独特な建物を設計し続けた人で、写真で見ても、何しろ自分の考えを貫く強さを持つ佇まいの人だった。
松濤美術館
その白井氏が、東京渋谷の松濤美術館を設計した建築家。というのを知った時に、なんだかとても納得がいった。
あの建物が竣工したのが1980年のはずだったのだけど、行くたびに、真ん中に噴水を設置するという、とてもユニークな作りだけでなく、とても内省的な、空気の重さを感じさせる不思議な雰囲気。
とても、あの、浮かれ始めた80年代の頃にできたとは思えず、何も知らないときは、もっととても古い建築物だと思っていたくらいだった。
『懐霄館----白井晟一の建築』
その番組の中で、いろいろな建築物が紹介されていて、自分が知らないだけで、どれも独特で、しかも見事に、思想を形にしたような、強すぎる意志を感じ、その建物によっては、よくここまで形にした、といった驚きのようなものを感じさせた。
その中で、特に凄さを感じたのが、『懐霄館』という建築物で、それは、長崎市佐世保市にある、親和銀行本店という金融機関の建物だった。
社会の中で、資本主義の中心地で、合理的であるはずなのに、その建物のあちこちが、その存在の意味を考えさせるような、抽象的で哲学的な部分も少なくなく、建物としては興味深かったが、やはり、銀行が、よくこうした建築物を建てることを依頼した……といった気持ちになる。
そのことを、もう少し詳しく知りたいと思って、この『懐霄館』に関する書籍を図書館で借りようと思って、書庫にあると知り、出かけ、頼んだら、思った以上に大きい本をスタッフの人が持ってきてくれた。
縦50センチくらいあって、びっくりした。
正確には、縦42センチ×横30センチ×厚さ2センチ。
しかも、持つとかなり重い。
すごく大きい本だった。
建物の写真
その本を開くにも、なんとなく気持ちが引き締まるというか、ちゃんと拝見しないといけないのではないか、そんな思いをさせる佇まいで、最初は、こんなに大きくする必要があるのだろうか、と思うくらいだった。
白井晟一、辻邦生、磯崎新。それぞれの文章はあるのだけど、白井の建築物の持つ重量感のようなものを表現するには、この大きさと重さの中で、写真もたっぷりと使わないと、とても伝えきれないのではないか。と、ページを開いていくと思うようになる。
確かに、この『懐霄館』は、九州で、行ったこともないし、あまり行く機会もなさそうなので、何かを語る資格はないのかもしれないけれど、それでも、唯一知っている松濤美術館のことを思い出して想像すると、この書籍の大きさと重さ自体が、白井建築というものには、必要なのではないかと思えてくる。
私にとっては、他の白井関連の書物を読むことと同様に、東京都内に住んでいるのであれば、なかなか行けていないノアビルに行くことが、「白井晟一の建築」への理解という困難に近づくには、やはり必要なことなのだろうとも感じた。
何しろ、実際に、手に取ってもらって、その大きさと重さを感じ、それとともに、その建築を表すには、ふさわしいことを、確認してほしい本だと思っています。
(こちらの本↓は、2021年の展覧会の時に出版された本です。さらに白井晟一の全体像を知りたい方には適していると思います)
(他にも、いろいろと書いています↓。よろしかったら、読んでもらえたら、うれしいです)。
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