![見出し画像](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/57025447/rectangle_large_type_2_f33d9efd3eafb09690b965270795f1bf.jpg?width=1200)
水道の蛇口が、「ロシアンルーレット」になっていたらしい。
「蛇口がバカになっちゃった」。
朝起きたら、妻に言われた。
確かに最近、すごくきつく締めないと、台所の水道の蛇口はポタポタ垂れるようになっていたから、いよいよかと思いながらも、様子を見たら、昨日の夜に締めた時よりも、明らかに悪化していた。
ハンドルを回して、締めて、水が止まりそうになって、もうすぐ止まるかも、と思ったら、ハンドルがスーッと軽くなって、また水が多く出る。
何年か前に、水道の一番上の三角形のハンドルがダメになったので、それに代わって、プラスチック製の一本棒のようなハンドルを使って、水を出したり止めたりしていた。
だから、すでに無理をさせているのも分かっていたが、何がどうなったのか、どうすればいいのか、分からなかった。
コマを替える
もしかしたら、コマを替えれば、何とかなるかもしれない。
まずは、水道の元栓を止めなくては。
裏口から、細い通路みたいな庭を通る。夏の草が茂っていて、下がよく見えない。どこに元栓があるのか、何度か締めたりしたのに、忘れている。
妻に聞いたら、一緒に来てくれて、「この辺だよ」と言われたところに、確かにあった。
その鉄のフタを開けて、元栓を横に倒したら、水が止まる。
工具があれこれあるけれど、必要なものがどこにあるのか分からないので、大きなペンチみたいなものを探してもらい、そして、それで、蛇口の上の部分のボルトを回して外す。
棒が出ていて、その下にコマがあるはずだけど、しばらく動かないから、ちょっと困って、さらに力を入れて回したら、スッと取れた。
下には、コマという名前の通りの、黒いゴムの小さい厚めの円盤があって、それを、妻に探してもらった新しいコマと替える。
また道具を使って、きつく締める。
うまくいかない
ちょっと祈るような気持ちで裏口を出て、元栓を開ける。
バーっという大きめの水の音。
「出てるよ」。
妻の声。
それから、台所に戻り、蛇口のハンドルを締めて、水が止まったと思ったら、またハンドルが軽く回ってしまい、水が出る。その繰り返しになる。
もう一度、古いコマにかえようとして、元栓を止めて、工具を使って、開けて、コマを替えて、再び、元栓を開ける。
ダメだった。
ハンドルの上の部分からも、小さい噴水のように水が出てしまっていて、もう、どうしようもなかった。
一瞬、水道の工事ができる会社に電話で頼もうと思ったが、来るだけで7000円、ということも思い出し、とてもせこい発想だけど、家のことなら、ほぼ全部のことができて、ポストも作ってもらった、「ご近所の方」に相談することにする。
妻は、地元に子供の頃から住んでいるから、「ご近所の方」とも関係がよく、呼んできてもらうことになった。
蛇口交換の必要性
そのまま、しばらく待った。
「ご近所の方」は、嫌な顔もしないで、やってきてくれて、スリッパをはいて、台所に来て、水があちこちから微妙に吹き出している蛇口を見て、穏やかにすぐに言った。
「これは、蛇口を替えた方がいいね」。
つまりは、ハンドル付きの小さなパイプである、私たちにとっては「蛇口全体」で、これを替えることなど思いもよらなかった。
私の発想では、ハンドル部分から、コマに至る、ネジなどの動く部分を替えるくらいで何とかなるのでは、とも思っていたけれど、どうやら、もっと「全部」を替えた方がいいらしい。
考えたら、この蛇口を何十年使ったか、分からない。だけど、気持ちは重かった。
「道具を持ってくる」。
そんな言葉を残して、「ご近所の方」は、いったんいなくなり、いろいろと持って、再びやってきてくれた。
蛇口を外す
私にとっては、見たことがない工具を持ってきてくれた。
それは、パイプレンチ、という名前らしい。
元栓を、また止めた。そして、蛇口全体を外すことになる。
その蛇口は古くて、湯沸かし器にも水を送っているから、なんだか、下手に力を入れると、どこかが壊れるのではないか、という怖さもあるが、その「ご近所の方」は、蛇口全体にレンチをかけて、回そうとした。
「かたいな」。
妻によれば、家一軒を建てられるくらいのスキルがあるすごい人らしいが、年齢を重ねたせいと、この蛇口が古くてどこか錆びて固まっているような感じもあり、最初は動かなかった。
私は、どこかが、壊れるかもしれない、と思って、怖かった。
私も力を添えることによって、グッと蛇口が回り出す。
いつもは、下にしか向いていない蛇口の口が横を向いたり、上を向いたりして、回転しだす。力を入れると、どこかが壊れるのではないか、という怖さとともに、それでも少しずつ回転をして、蛇口が外れる。
知らない情報
そこには、「見慣れない穴」があった。
毎日、ここから水が流れ込んできているし、ずっと使ってきたけれど、実際には、見たことがない場所だ。
「あ、さびてるな」。
そんな風に言われ、古い歯ブラシを使って、その「穴」を少しかき出すと、茶色い水が流れ出す。さらに、もう少しこすったけれど、あんまり強くこすると、ネジがダメになるかも、などと思うほど、古いものだった。
あとは、蛇口を買ってきて、ここに付けるだけだったが、だけど、そんなことをしたことはない。
「ご近所の方」は、その付け方も含めて、教えてくれた。おそらく、大事なのは、蛇口をねじ込んで取り付けるときに、そのネジの部分に、時計と逆回りの方向に、シールテープを何周か回して、つけることだった。
これによって、その大事な連結部分のすき間を埋める、ということらしいし、取り付けるとき、回して、その蛇口が適切な位置に収まるためにも、大事なものらしい。その巻き方の厚さによって、調整ができるという。
教えてもらい、本当にありがたかったし、そんな情報を生まれて初めて聞いた。
ホームセンター
このままでは、一時停止をしている洗濯物も再開できないし、水道が使えないのは、やっぱり困るし、何より「見慣れない穴」がずっと開いているのは、やっぱりちょっと怖かった。
歩いて、7分くらいのホームセンターに、外した蛇口を一応持って、出かける。
サクサク歩く。
少しでも早く買って帰って、取り付けて、洗濯も始めたいし、日常を回復させたい気持ちもあったと思う。
ホームセンターは、開いていて、それはちょっとホッとする。
午前10時過ぎ。
そういえば、水道関係のものがどこに売っているかは知らないけれど、1階に「DIY」の文字を見て、そこで探す。なんだか、工具っぽいところを目指して、水回りのものが売っている場所に近づき、そこにいたスタッフの女性に、蛇口はどこですか?と聞いたら、こちらです、と言われて、そこを探す。
お風呂の栓とか、蛇口まわりはあるけれど、短いパイプでもある「蛇口全体」が見当たらないので、再び、同じスタッフに、さっき外した蛇口を見せたら、少しお待ちください、と言われて、その早歩きについて行ったら、ベテランの男性スタッフがいた。
蛇口を見せたら、すぐに「蛇口は取り扱っておりません」と、言われた。
あまり頭の動きが止まることはないけれど、少し立ち止まって、呆然としていた。あの「見慣れない穴」をそのままにはできないし、洗濯は始められないし、水道も使えない。
どうしよう。
そのスタッフたちは、一言だけいって、もう関係がない、という気配だったので、自分で気持ちを立て直し、もう一度、水まわりのコーナーに戻る。
蛇口全体は確かにないけれど、バカになってしまったハンドル部分だけでも替えれば、もしかしたら、応急処置としては有効かもしれない。
「水栓のハンドル上部」を購入し、不安なまま、家に戻った。
ハンドルを替える
帰って、「蛇口全体がなかった」と妻に伝えると、不安が移ったようだった。
それでも、台所に行って、作業を始める。
蛇口の上の部分に買ってきた新しい「ハンドル上部」と、コマを入れて、工具で締める。
それから、さっき、ご近所の方が持ってきてくれた「シールテープ」を、外した蛇口のネジのところに、「こっちが時計と逆回りだよね」と確認しながら、妻と二人で協力して、3周ほど巻いた。
そして、蛇口を「見慣れない穴」にねじ込んで、取り付け始める。
ゆっくり回し、元の部分が壊れないように、そっと回して、だんだん取り付いていく感触は確かにある。抵抗も強くなるが、まだ回る。そして、ちょうど、蛇口の、水が出る部分がほぼ真下になったところで、それ以上、両手では動かなくなる。
これ以上、レンチなどを使って、回したら、その負担によって、どこかが壊れるのではないか。さっき見た、あちこち錆びている印象が重なって、怖くなり、そこで止める。
また裏口から外へ出て、元栓を開ける。
「出てないよ」。
妻の声が聞こえる。
台所に回ったら、水がピタッと止まっていた。
ホッとはしたが、ハンドルを回した。さっきまで使っていた、一本棒のバーの時と違って、回り方がスムーズで、水の出方も何段階かを経て、だんだん多くなっていった。
そして、また逆に回すと、そんなに力もいらずに、水が止まった。
蛇口の操作が、こんなにスムーズだったことを忘れていた。
怖いのは、蛇口の根本から水が漏れたりすることだったけれど、とりあえずは、大丈夫なようだった。
ほっとした。
「これで、いいよね」と妻に確認し、蛇口は、通販で買うことにした。しばらくは、これで行くことにした。
上部だけピカピカの蛇口が頼もしく、ありがたく見える。
洗濯も再開できた。長く一時停止にしていたら、いったんスイッチが切れていた。
御礼をする
やっぱり、ほっとして、そして、道具を返しに、「ご近所の方」に粗品を持って、お礼にいった。最初は受け取ろうとしなかったけれど、なんとか渡せた。道具の名前も確認できた。
そして、今の状況を確認した。
水が漏れたりしなければ、とりあえずは大丈夫なこと。
そして、もしもう一度、つける時、蛇口の位置を調整するのであれば、シールテープの巻き方を薄くしたりして、可能になることを聞いた。さっきも同様なことを教えてくれていたはずだったのだけど、今、聞くと、体でわかる気がする。
とても助かった。
この「ご近所の方」がいなかったら、テレビCMで見る、水のことで困ったら、という業者に電話していたと思う。
「ロシアンルーレット」だったらしい
ここまで約2時間。なんとか昼ごはんの前に、メドがつき、安心して、洗濯物を干しながら、妻と話をした。
そのときに、微妙に疑問に思っていたことを聞いた。
「夜は、きつくしめて、いったんは止まったはずだったんだけど、朝になって、もっとダラダラ水が出ていたけど、なんでだろ?」。
妻は、言いにくそうに、話をした。
「ハンドルを回して、止めて、そこから、またグイッと回したら、何かが外れるように、水が出るようになっちゃったんだよね」
「あ、そうなんだ。じゃあ、そこでトドメを刺した感じだったんだ」。
妻は、さらに「モジモジ」するように、恥ずかしそうに、だけど、話を続ける。
「そう。だから、私がやってしまって、謝りたくなかったっていうか。〇〇ちゃん(夫である私のこと)が、そのときに、回してくれれば、なんて、思っちゃったんだよね。ロシアンルーレットみたいな状態だと思ったから」。
そのことを伝えてくれて、その上で、まだバツが悪いような表情をしている妻を見て、この状況を「ロシアンルーレット」と表現するのはすごいと思いつつも、なんだか笑ってしまった。
こんなに正直な人と、これまで一緒に生きて来られて、そして、これからも生きていけるのは、本当に幸運なことだ。
笑っていたけど、そんなことも思った。
(他にも、いろいろと書いています↓。よろしかったら、読んでいただければ、うれしいです)。
いいなと思ったら応援しよう!
![おちまこと](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/21675265/profile_766ce21768543f445081f8916b66209d.jpeg?width=600&crop=1:1,smart)