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幻のままになってしまった「東京城」

 BSで放送した「アートフルワールド」という番組を夜中に再放送していた。

 それを録画して、昼間に、それほど期待しないで見ていた。民放でアートを扱うと、「変わった人が作っている」だったり、「敷居が高いですが」といった視点から番組が作られているので、微妙にモヤモヤすることが多いからだった。

「東京城」

 この時のテーマは「アートフルトウキョウ」と題して、街の中のアートの話題になり、その中で、「パビリオントウキョウ」も扱われていた。

 その作品の中で、会田誠「東京城」もあった。
 表参道という都心に、本当にエアポケットのように使われていない場所があったこと。そこに、困難な交渉を重ねて、ダンボールと、ブルーシートを使った二つの「城」を建てて、約2ヶ月間、展示されていること。
 そうした事実を改めて知る。

 その場所は、「作品」をアップにした映像だと、一瞬、どこだか分からないような緑が多い所だった。その「城」は、とても大きく、思った以上に、しっかりと建っているように見えた。そして、ダンボールの「城」の色合いや、形は、想像以上に魅力的だった。

 7月から、この展示をしているのは知ってはいたけれど、これまでは、コロナ感染拡大のために、わざわざ都心に行くのは怖くて、気になりながらも、この「パビリオントウキョウ2021」には行けないままだった。このテレビ番組を見た時は、会期が終わろうとする時で、もしも見に行けるとしたら、土曜日の夕方。会期終了の1日前、9月4日だった。

 とても個人的な気持ちに過ぎないけれど、見に行かなくちゃいけないのではないか、と思ったのは、20年以上前の記憶があったからだった。

会田誠というアーティスト

 私にとっては「スターアーティスト」の一人だけど、一般的には、あまり知られていないと思う。

 会田誠は、1990年代から、ずっと現代アート(この言い方にも、いろいろな議論があり、そうしたことがややこしさにつながり、それは確かに「敷居を高くしている」と思う)の「第一線」で作品を作り続けて、見事に生き残っているアーティストに見える。

 最初に、会田誠を知ったのは、今は紙の雑誌としてはなくなってしまった「ぴあ」という情報誌だった。映画や、音楽や、美術や、演劇などの情報がまとまって載っていて、当時、最も早い情報が、そこにあった。

 1996年、それまでアートに全く興味がなかったのだけど、「ぴあ」に載っていた、アートの特集をたまたま読んだ。そのテーマは「世紀末におもろいアートが炸裂!」と名付けられて、やけに強く興味を持ってしまったのは、「ビンボー系  バブル崩壊、清貧の思想でパワーアップ」というタイトルでくくられていた中に会田誠がいて、「ダンボール城」の写真があったからだ。

 いわゆる天守閣が、つぎはぎのダンボールで作られていて、よく見ると、形には微妙にゆがみがあるが、やけに魅力的に見えた。しかも、いわゆる「ダンボールハウス」として製作されているのを知った。

 金のない時に組み立てた作品。展覧会に出品後、動く歩道問題で揺れる新宿西口の地下通路に設置したものの、さすがにホームレスも住みつくのをためらい、5日後に撤去された。(「ぴあ」より)

 こういうことも作品になることに、まだアートに関する知識も何もなかったのだけど、言葉にならないような驚きのようなものを感じ、それから、アート、特に現代アートと言われるものに興味を持ち、見に行くようなった。

 特に個人的に辛い時に、見たくなり、思った以上に気持ちを支えられ、いろいろなアーティストを知り、少しは知識も増えた。

 それから20年以上、興味を持ち続けることもできたのだけど、会田誠は、ずっと新作を作り続け、その個展はできる限り見にいったし、作品集も買い、サインをもらったこともあった。

 気がついたら、会田誠は、大御所のような雰囲気になっていた。

幻の「東京城」

 最初に、アートに興味を持たせてくれた作品の一つが「ダンボール城」だったのは間違いなくて、それから随分と時間が経って、再び、「ダンボール城」を、今度は表参道に、しかも、スケールは何十倍も大きくして、展示される。

 そのことに、テレビ番組を見て、勝手に大きな意味を感じてしまい、コロナ感染で諦めていたのだけど、土曜日の夕方だったら、ちょうど出かける用事もあり、その帰りに、なるべく人が少なそうな路線に乗って、青山一丁目か、外苑前に行けることが分かった。だから、行こうと思った。

 その日の夕方、ずっと微妙な小雨が降り続けていた。そのことで、何かの機会に見た渋谷の雑踏を思い出し、表参道も、同じように人が「密」になっているのではないか、と思って、やっぱり怖くなった。

 もっと雨が降っていれば、人はあまりいなさそうで、行こうと思えたのだけど、この程度の、カサをささないで済むような雨だったら、やっぱり人がいっぱいいるように思え、そこで、あきらめた。

 情けないことではあったのだけど、今は、感染しないように暮らすことを優先事項にしているので、そのまま家に帰る。

 私にとっては、「東京城」は幻のままになってしまった。

 結果的には何もしなかったけれど、2021年の夏の記憶として、見にいこうと思った「東京城」の印象は、自分の中に、残るのだと思う。



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おちまこと
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