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【ショートショート】1000の物語

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1000文字以内で綴っている小説のマガジンになります。 短い話の中で繰り広げられる無限の世界であなたをお待ちしております。 無断転載等は禁止です。
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#毎日更新

【ショートショート】ドッペルゲンガー

 ある日、いつものように通勤電車に乗っていると、少し離れた所に私の顔そっくりの女性を見かけた。最初はただ似た顔の人と偶然出会っただけかと思っていた。でも見れば見るだけ、その人は自分そっくりの顔をしていた。それは似ているとか似ていないとかの次元をはるかに超えていて、鏡に写った私をそのまま鏡の世界から持ってきたかのような、まさにドッペルゲンガーだった。  生きていれば自分に似た顔の人と出会うこともあると必死で言い聞かせながら、気味の悪さに震えながら、私はそれからの毎日を過ごすこ

【ショートショート】似たもの同士

「さっきから一人だけど、どうしたの? もし相手がいないなら俺と話さない?」  一人で呑んでいると必ず現れるような男に、私はいい加減うんざりし始めた。もっと女性を口説くためのロマンチックな謳い文句があるだろうと説教したくなる。 「ごめんなさい。私、あなたみたいな男には興味ないの」 「なっ!」 「お互いに時間の無駄だから、さっさと消えて」  ムッとした表情を男が向けてきたが、私は気にせずその場を立ち去った。  立食形式の婚活パーティーに参加するのはこれで五回目だ。結婚

【ショートショート】綺麗すぎた字

 好きな人が出来た。相手は同じクラスの田中くんだ。好きになった理由は、彼の字がすごく綺麗だったからだ。  でも告白する勇気が私にはない。好きって言うのが恥ずかしくて、もし目の前で言おうものなら言い終わる前に失神する自信すらある。だけどこの気持ちを知ってほしくて仕方がないので、何かいい方法はないかと思案した私は、アナログだけど、恋文を書くことにした。  SNSの発達した時代に恋文なんていかがなものか、と考えないわけではなかった。田中くんの連絡先は知っているし、しようと思えば

【ショートショート】ヒーローのクノウ

 コンビニに寄り、店員に裏でコスプレ野郎と笑われながら、夕飯を買った。正直、もう色々と限界が近い。日々の仕事のストレスと大気成分のせいで脱ぎたくても脱げないヒーロースーツに、俺は押しつぶされる寸前だ。  今日もヒーローショーが終わると、悪魔大王の子分が「大王様が呼んでいます」と言いに来た。憂鬱になりながら悪魔大王の楽屋に入ると、安そうなパイプ椅子にさも偉そうに座った悪魔大王がさっそく説教をかましてきた。 「あのさあ、クノウくん。この前必殺技の光線が眩しいって、私言いました

【ショートショート】権利を求めて

「「我々にも権利を!」」 「「差別をするな!」」  デモ行進が始まって今日で一週間がたった。初日からまあまあな規模の数だったが、日々拡大を続け、今日にいたっては遂に一万を超えた。  俺は先頭から少し後ろで群に混ざり、他の仲間達と一緒に行進をしている。参加したのは三日前からだ。このデモに参加したきっかけは、このデモのせいで俺が仕事を失ったからだ。  デモがなければ仕事はなくならなかったと考えることはしなかった。このデモがあってもなくても、どのみち俺は仕事を失っている。だ

【ショートショート】善と悪行

 シゴトが終わった。今日が初めてのシゴトだった。正直に言って気分が悪い。頭で理解していた内容と、実際の内容との差が激し過ぎて、少しナイーブにすらなっている。港の端からみる東京湾の暗い海が、まるで今の心境だ。  煙草の箱を取り出してはポケットにしまう行為を何度も繰り返し、それと同時に手遊びでライターの蓋を無意識に開け閉めしてしまう。いくら心を落ち着かせようとしても、どうにも落ち着かない。 「おい、いつまでたそがれてんだ。もう行くぞ」 「あ、兄貴……」  話しかけてきたの

【ショートショート】後輩からの質問

       肩を落としながら去って行く後輩の背中を見ながら、俺は自己嫌悪に浸った。もう少し優しい言い方はできなかったのかと、今更になって後悔する。アイツはただわからないところを質問してきただけなのに、俺はそれを邪険に扱ってしまった。 「なぜですか? なぜこういう手順になっているのですか?」  聞こえない筈の後輩の声が俺の耳の中でこだました。そんなの俺だってわからない。でもわからなくても、今までやってこられた。教えてもらった手順を踏めば、まず間違うことはない。どうしてその

【ショートショート】私がやりたいこと

 すべてを器用貧乏にこなしてしまう私は、料理にしてもスポーツにしても、最初からなんだかんだ出来てしまう。けど短い時間で人よりも結果を出してしまうので、どうしても飽きてしまい、一つのことを長く続けることが出来ない。それゆえに部活動や学校生活で大成することが出来なくて、高校生にもなったのに、未だにやりたいことが見つからない。だから先週配られた早すぎる進路希望用紙は、未だに白紙のままだ。  先生からは「何かやりたいことはないのか?」としきりに訊かれる。でも本当になにも思い浮かばな

【ショートショート】財布の中には【34日目】

 食費や交友費が積み重なり、全財産が財布の中にある一万円札だけになった。次の給料日までは残り二週間もある。今日から贅沢を禁止して支出を抑えなければならない。  だが節制一日目となる月曜日からシャンプーが切れていたので、仕方なく買う羽目になった。レジに入れた一万円札が千円札九枚と細かな小銭になって返ってくる。そのお釣りを財布にしまう時、一万円札だけの時よりもたくさんのお札が入っているのを見て、確実に所持金は減っているのに、まだお金があると錯覚してしまい、なぜか心に余裕が出てき

【ショートショート】役不足【33日目】

「佐藤くん。この前お願いしたプロジェクトの件はどうだい?」 「そのことなんですが、あまり大声では言えないんですけど……ちょっと役不足で――」 「そうか……。なら佐藤くんには外れてもらおう。時間もないしね。それと、こういう時は役不足という言葉ではなく、力不足という言葉の方が適切だよ」 「えっ、ああ……はい。すみません」  気抜けした顔で返事をする部下に、私はため息をつきたくなった。最近の若者は、という言葉はあまり使いたくないが、日本語の正しい意味を理解していない者が多す

【ショートショート】執着心【32日目】

 俺は誰にも負けない執着心を持っている。それは俺の原動力でもある。  幼いころから漫画家になりたいと思っていた俺は、その執着心だけで作品を書き続けた。そして高校生の時に書いた漫画が、ある少年誌主催の漫画賞で大賞を取った。その時にもらった記念品の盾は、俺の宝物だ。  大賞を受賞したので俺の進路先は自然と漫画家になった。精力的に作品を書き続けたおかげで、一年後には連載を持つまでになっていた。漫画家としての拍もつき、印税もたんまり入るようになった。  だけど金の余裕が心の余裕

【ショートショート】夢幻泡影【31日目】

 幼稚園から大学までを一緒に過ごした幼馴染が車にはねられて死んだ。その知らせを受け取ったのは午前二時頃で、俺はまだ会社にいた。  初めは何かの冗談だと思った。幼馴染はまだ二十五歳だ。死ぬなんて、考えたこともなかった。  翌朝、クソみたいな上司に土下座してまで有給を申請したが当然のように却下された。葬式に行きたいならクビだとさえ言われた。だからその場で荷物をまとめて会社を出た。後ろで上司が何か言っていたが俺は無視した。  葬式は幼馴染の実家で行われた。焼香の時に幼馴染の顔

【ショートショート】破天荒【30日目】

 つい先日、大学時代の友人であるアヤちゃんに会った。アヤちゃんは、「やっぱりカヤちゃんは破天荒だね」と言った。でも私に言わしてみれば、破天荒なのはどう考えてもアヤちゃんの方だった。  大学時代のアヤちゃんは、マゼンタ、シアン、イエローの三原色で髪を染め、和装と洋装をごちゃごちゃに組み合わせた服を着て、メイクも片眼だけに大きな星を描いたり、授業中に急に奇声を上げたり、隣の人の服でお絵描きを始めたりする娘(こ)だった。だから奇抜な人が集まる芸術学部でも、彼女はいい意味でも悪い意

【ショートショート】偽善者【29日目】

       俺の親友は困っている人に遭遇すると、その人のことを放っておくことが出来ない性格だ。一緒に遊んでいる時や帰っている時でも、困っている人を見かけたら必ず助けに行ってしまう。この前もスーパーの駐輪場で自転車をドミノ倒ししてしまった人を、悪気なく助けていた。  親友の行動は間違いなく賞賛されるべき行いだ。でも彼の行動を偽善と言う人もいた。見かねた俺は、親友に人助けをやめるよう説得してみることにした。 「見境なく人に親切してたらいつか痛い目見るぞ」 「でも困ってる人