【ショートショート】偽善者【29日目】
俺の親友は困っている人に遭遇すると、その人のことを放っておくことが出来ない性格だ。一緒に遊んでいる時や帰っている時でも、困っている人を見かけたら必ず助けに行ってしまう。この前もスーパーの駐輪場で自転車をドミノ倒ししてしまった人を、悪気なく助けていた。
親友の行動は間違いなく賞賛されるべき行いだ。でも彼の行動を偽善と言う人もいた。見かねた俺は、親友に人助けをやめるよう説得してみることにした。
「見境なく人に親切してたらいつか痛い目見るぞ」
「でも困ってる人を放っておくことは出来ないよ」
「じゃあお前は見ず知らずの人からお金貸してって言われたら貸すのかよ」
「本当に困ってそうなら貸すよ」
「阿呆か。お前の善意を喰おうとしてるんだぞ」
「そんなことはわかってるよ」
「じゃあなんで貸すんだよ。お前にメリットなんてないだろ」
あまりにもお人好し過ぎる親友に俺は怒りたくなった。人は性善説だと絶対に信じてやまないコイツに、この世の現実を見せたくなった。
「お前が人に親切しても感謝なんてこれっぽっちもされないだろ。それより、怖がられて逃げられるのがオチじゃないか。この前だって自転車起こすの手伝ったのに、お礼の一つもされないで、怖がられて逃げられたじゃないか」
「しょうがないよ。だってこの顔だもん。怖がるのは当然だよ」
友人が俯いた。俺はしまったと思った。友人の右頬にある傷が俺を無意識に責め立てた。
「じゃあ人に親切するのやめろよ。お前が人に親切するとその人が怖がるだろ。お前の親切が迷惑な奴もいるんだよ。だから陰で偽善者って呼ばれてんだぞ」
「別に気にしてないよ」
「ふざけんな! 偽善者だぞ! いくら心の底から人に親切したって、陰口言ってお前の親切心をゴミみたいに捨ててるってことだぞ。なのに何でそんなことが言えるんだよ!」
感情がぐちゃぐちゃになった俺は訳も分からずに叫んだ。言い返してこない親友を見るのが辛かった。人に親切が出来る優しい心を持った親友を何も知らない他人に貶されるのが悔しかった。これ以上、親友の親切心を使い捨てにされることが我慢出来なかった。
「ありがとう。君のそういうところ好きだよ。でも僕は本当に気にしてないから。呼びたい奴だけ呼べばいいって思ってる。それに、いくら偽善者って言われても、本当の僕のことを君が知ってくれているから。僕にはそれで充分だよ」
親友の言葉に、俺は悔しくて涙を浮かべた。
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