【ショートショート】破天荒【30日目】
つい先日、大学時代の友人であるアヤちゃんに会った。アヤちゃんは、「やっぱりカヤちゃんは破天荒だね」と言った。でも私に言わしてみれば、破天荒なのはどう考えてもアヤちゃんの方だった。
大学時代のアヤちゃんは、マゼンタ、シアン、イエローの三原色で髪を染め、和装と洋装をごちゃごちゃに組み合わせた服を着て、メイクも片眼だけに大きな星を描いたり、授業中に急に奇声を上げたり、隣の人の服でお絵描きを始めたりする娘(こ)だった。だから奇抜な人が集まる芸術学部でも、彼女はいい意味でも悪い意味でも有名だった。
そんな彼女だけど、絵画の腕は本物だった。学生時代から数々のコンクールで入賞し、在学中に有名企業から仕事を依頼されるほどだった。
どうすれば彼女みたいに上手い絵が描けるのかを私は本気で考えた。考えに考えた挙句、たどり着いた答えは、彼女みたいに破天荒になればいい、だった。
「どうしたら破天荒になれるかな?」
「人と同じものアレルギーにかかればいいんじゃない?」
「何それ?」
「人と同じことが嫌いになる病気」
「それって周りから白い眼で見られたり、同調圧力掛けられたり、時と場合によっては恥ずかしい思いをしたりしない?」
「アタシそういうの気にしたことないからわかんないなあ」
呆気からんとした態度に私は嫉妬した。でもそれが彼女だ。誰にもこびずに我が道を行く。本音を言えば、そういう考えが出来る彼女が羨ましくて仕方がなかった。
「私、アヤちゃんみたいな破天荒になりたいの」
「今でも破天荒じゃん」
「えっ?」
「カヤちゃんは人と同じことが出来る。だからカヤちゃんの周りにはいっぱいお友達がいるし、いつも誰かと話して楽しそうにしている。アタシからしてみれば、そういうカヤちゃんの方が充分に破天荒だよ」
彼女の言葉に、私はなぜか頷いてしまった。破天荒だと言われたことが何だか嬉しくすらあった。
でも結局、私は彼女みたいな破天荒にはなれなかった。大学を卒業した後も、普通に結婚して、子供を産み、育て、人並みの生活をしている。でも彼女に言わせてみれば、それが破天荒らしい。
「アタシにはそんな破天荒な生活できないよお」
「何言ってるのよ。こんな破天荒な作品作っておいて、よく言うよ」
世界でも有名になったアヤちゃんと、彼女の相変わらず破天荒な絵を見ながら、その日はどちらが破天荒なのかという話題で盛り上がった。
最後までお読みいただきありがとうございます。
少しでも気に入っていただけたらスキ、フォロー、コメントをよろしくお願いします。
こちらのマガジンに過去の1000文字小説をまとめております。
是非お読みください。