【読んだ本】「多情所感」キム・ホンビ著
先日こちらの本を読みました。
最初に掲載されている「日本の読者のみなさんへ」のメッセージがとてもかわいらしくあたたかくて、これを読んだだけでキム・ホンビさんという人をすっかり好きになってしまいました。
キム・ホンビさんの言葉遣いもとても好きになったのですが、それもこれもすばらしく日本語に再現して下さる翻訳者の小山内園子さんのおかげですよね。数年前に韓国文学にハマった際に、次に何を読めばよいか迷った時は(気に入った本の)翻訳者を辿ると好みの本に出会いやすいというのをどこかで見かけて、当時は斎藤真理子さんの訳書ばかりを読んでいました。そして斎藤さんのファンにもなり、トークイベントにまで行ったほどです。今後は小山内さんの訳書も追いかけてみなくては。
本書の大好きなエピソードのひとつに、「逆さま人間たち」があります。
サッカーチームでの練習の時に、当時三十代前半だったホンビさんに対し、五十歳前後の先輩たちにこう言われます。
その10歳以上歳上の先輩たちは、鉄棒に逆さまにぶら下がったまま腹筋ができたり、サッカーの試合を前後半戦通して余裕でプレーできる体力があったりと、ホンビさんよりも身体能力が秀でています。それにしても、50歳前後の人が30代の人に対して(体力や運動能力について)「あたしの年になればできるようになる」というのはめずらしいですよね。
歳をとったら体力が落ちるという「世間の常識」とは真逆の考え方に感化され、サッカーを続けているうちに著者自身も体力が向上したそうです。また身体的なことだけでなく、サッカー以外の物事でも年齢を理由に躊躇することがなくなり、さまざまなことへ挑戦するようになったと書かれていました。とても素晴らしいし、憧れます。こんな私でもなんでもやってみればできるのかも、と勇気をもらえました。
それからこれもサッカーにまつわるエピソードで、「サッカーと大家」も励まされるお話です。
筆者がトークイベントで読者に「サッカーをやっていて一番良かった点」を聞かれ、こう答えました。
以前は暴力的な大家に対してなす術もなかったが、サッカーの試合で激しい競り合いを積み重ねるうちに、ある時から怒鳴り声をあげる大家に対抗できるようになったそうです。
サッカーの競り合いの描写を読んでいるとあまりにも過酷なのですが(私にはとてもできそうもない)、その経験のおかげで筆者は、危機的な状況に陥った時「暴力への恐怖に制圧され」ずに、大声を出したり、場合によっては相手を殴るという対抗手段を持てるようになったということでした。私もそんなふうになってみたいと、また羨ましく思いました。
でも私が今からサッカーチームに入るのはかなりむずかしそう…。私でも今から無理なくできることから、とりあえず筋トレをがんばろうと思います。もちろんサッカーの競り合いには遠く及ばないのだけれど…それでも自分を今より少しでも変えたい、と突き動かされます。
「歳をとっているからできない」「女だからできない」と当然のように思い込んでいたことも、挑戦してみてもいい、簡単に諦めなくてもいい、と気づかされ勇気をもらえました。それだけでなく、みんなにもこのことを知ってほしい気持ちが溢れ、自分の身近にいる女性たちにひとつひとつのエピソードをシェアしたくなりました。
そして、この著書が現在も会社員であるためか、本書で書かれている日常生活や職場での経験が、なんと臨場感のあることか。書かれているエピソードのひとつひとつが身近に感じられ、自分の人生の中にも入ってくるようです。
最後に、「訳者あとがき」にまで心温まるエピソードがありました。訳者と著者のメールのやり取りについてですが、読んでいてじーんとして温かい気持ちになります。ぜひ最後まで楽しみに読んで下さい。
この本には心温まるエピソードや、勇気づけられ力をもらえるお話がたくさん詰まっています。読むと優しく背中を撫でられるような気持ちになります。この本に出会えて良かったです。心からおすすめします。
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