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【読書メモ #42】「本業転換」を読んで考える
本業が時代の変化に取り残される「本業喪失」のリスクは、あらゆる業種・業界に存在する。
近年、AIの急激な発展もあり、個人の仕事が奪われるだけでなく、多くの企業の仕事が奪われるといっても過言ではないかもしれない。(過去取り上げたように中小のコンサルティング会社は影響が大きいだろう。)
デジタル化、グローバル競争、環境問題など、経営環境の変化が激しい現代では、企業がそのままの事業構造を維持して生き残ることは難しい。
今回紹介する「本業転換」では、日本の企業が直面した本業喪失の危機と、それに対する戦略的な対応を多角的に分析している。
事例で学ぶ成功と失敗の分岐点
本書の最大の特徴は、同業種内で「うまくいった企業」と「うまくいかなかった企業」を比較して解説している点である。
たとえば、富士フイルムが写真フィルム事業の衰退を見越し、化粧品や医薬品事業に舵を切った成功例がある。一方で、同業種でありながら、衰退する本業に固執し、新規事業への対応が遅れた企業もある。(コダックが取り上げられている)
本書では、両者の違いを明確にしながら、成功する本業転換のポイントを示している。
決断のタイミングが分水嶺か
富士フイルムの事例は非常にわかりやすく、改めてその経営判断の見事さに感心させられた。
しかし、こうした転換の成功事例を見るたびに気になるのは、その裏側だ。
新規事業に舵を切ることが論理的には正しいとしても、社内の主要事業のパワーが強い中で、どのように新規事業を進める意思決定が行われたのか。
利益を生まない新規事業への投資を、いかに社内で支持させたのか。これらの背景が詳細に語られていない点が少し惜しいと感じた。(外側から見ているのでは調査が難しいのは間違いないが)
個人的には、こうした大胆な転換を進めるには、「ワンマン社長」に近い強力なリーダーシップが不可欠だと思っている。
日本企業が本業転換を進められない理由の一つは、主要事業出身の社長がパワーバランスを維持しようとし、新規事業への挑戦が封じ込められる構造にあるのではないかと、個人的には思っている。
時間軸の違いがもたらすギャップ
本書で特に印象に残ったのは、「時間軸」という概念だ。たとえば、銀行と証券会社では、業務の時間軸が大きく異なる。銀行は一日単位でお金の管理を行うが、証券会社は市場の動きに応じて午前・午後で異なる判断を求められる。
この時間軸の違いは、自動車産業とIT産業の意思決定スパンの比較にも当てはまると考えられる。
メーカーが考える設備投資の回収期間は長期的だが、IT産業では技術革新のスピードが速く、短期間で成果を求められる。時間軸が異なる中で、どのようにして新規事業を進めるべきかという視点は、多くの企業にとって重要な示唆を与えている。
投資の時間軸を共有する難しさ
本書を読んで特に考えさせられたのは、企業内で時間軸の違いをどうすり合わせるかという課題だ。
新規事業の投資回収が長期にわたる場合、短期的な成果を求める従来の事業部門との間に摩擦が生じるのは避けられない。そのため、経営者は単に「新規事業に投資する」といった表面的な決定だけでなく、各事業の時間軸を踏まえた調整や、組織文化の変革が必要だと感じた。
成功する本業転換の条件
本書で提示される内容を受けて、成功の要因として、「タイミング」「意思決定」「組織構造」の三つ重要ではないかと思った。
タイミングは、本業がまだ利益を生んでいる段階で次の事業に着手すること。
意思決定では、リーダーシップを持って社内外の反発を抑えながらも、新しい方向性を示すこと。
組織構造においては、新規事業を推進するための専任チームを作ることが大切だ。
日本企業が抱える課題
成功の要因として挙げられる要素は理論的で納得感があるものの、日本企業ではこれらを実現するのが容易でないと感じた。
特に、「本業がまだ利益を生んでいる段階での転換」は、多くの企業にとって難しい決断だ。利益を上げている事業に対して、なぜ新規事業への投資が必要なのかを説明し、説得する力が求められる。
既存の主力事業からの大きな反発があるだけでなく、機会を狙う他の勢力との社内競争もあるからだ。
これを実現するには、経営者自身の先見性と強力な説得力が不可欠だろう。少なくとも、3年程度で交代してしまうような経営体制では難しいだろう。
本業転換を成功させるために必要な視点
本書「本業転換」は、企業が本業喪失の危機にどう立ち向かうべきかを考える上で、具体的な事例を基に示唆を与えてくれる内容であった。
特に印象に残ったのは、成功する企業と失敗する企業の違いを対比しながら、ケースとして分析してくれる点である。
しかし、理論としては正しいし、納得感があるものの、実務においては、既存事業のパワーバランスや投資の時間軸の違いなど、超えるべき壁が多いことも感じた。
本業転換を成功させるためには、単なる計画や数値目標だけではなく、経営者の強いリーダーシップ、組織全体での意識共有、そして現実を見据えた柔軟な戦略が求められるのだろう。
日本企業がこれからの激変する経営環境の中で生き残るためには、本書が示すような視点を実際の経営にどう落とし込むかが鍵になると思う。
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