【短編小説】いつか会ってみたい人 #絵から小説 #3000字
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いつか行ってみたい場所
いつか会ってみたい人
そんな話で教室で盛り上がってるうちに
私たちがハマったものがあった。
高校2年。
私がいるのは紋別。
海があるのが日常で
美味しい海鮮があるのが当たり前だ。
冬は10月になれば極寒。
こんなに寒いのに
昔の人は
よくここまで開拓に来たもんだと感心する。
とはいえ、昔の人がこんなとこに来なければ
きっと平成21年の今、
16歳の私たちが寒い思いも
しなかっただろうとも思う。
先月、髪を肩より上まで切ってしまったことを
少し後悔する。
寒いからだ。
「恨むわ」
ヤエコは、手に息をハーってしながら言う。
綺麗なロングヘアは、冬という敵から
首を守る装備に見える。
「私、寒いの嫌い。
開拓者恨むわ。
いや、歴史ごと恨むわ。」
ヤエコの恨みは壮大だ。
毎年、冬は、歴史ごと恨んでいる。
「魚は美味しいけどね。」
「光希、知らないの?
魚なんて東京でも食べられるんだよ。」
私が魚介類が好きなのは、
きっと、紋別で新鮮なものが食べられるからだ。
「東京、また、行きたい?」
中学の修学旅行は東京だった。
人がいっぱいいて、大変だった原宿。
大して美味しくなかったホテルの料理。
ぎゅうぎゅう詰めのJR。
都会とは人に酔う場所だと思った。
「行きたくない。」
ヤエコも都会は別に行きたくないらしい。
「行くなら、福島だよ」
「また言ってる」
私たちは、インターネットで
とある美容室のホームページを見ることに
ハマっていた。
そこの住所は福島県福島市…
そのあとはどう読むかわからない。
万、世、町。読めない。
最初は昭和のアイドルみたいな
女の子の髪型を
ありえないって言って見ていただけの
ホームページだったけど
今は1人しかいない男性のモデルさんが
ヤエコは気になっていて
私もそれを見ている。
今日もこれから電気屋さんに寄って、
Yahoo!で検索するのだ。
「光希だって、会ってみたいでしょ?」
モデルの人を思い浮かべると
多分私たちよりずっと年上。
「……なんか、あの人ホストみたいだし。」
「何言ってんの?イケメンだよ?」
髪型が奇抜すぎて顔面の記憶がない。
ある時は、野球部みたいな坊主伸びかけに
線が入って絵が描いてあるみたいで
服は、キックザカンクルーみたいだった。
次見た時はブリーチしてて金超えてプラチナ。
次見た時は、襟足だけピンクの変なロン毛。
違う写真は、三毛猫みたいなまだら模様の髪、
服にはノーサンキューって書いてあって
マジでノーサンキューだと思った。
別の写真は、緑色の短髪で何かのコスプレかと。
とにかく、顔を覚えていない。
電気屋さんのパソコン売り場は
買う気もないのに見に来ている
私たちみたいな高校生が何組かいる。
iMacは、Windowsよりオシャレだけど
使いにくいから、
ヤエコは、
NECのデスクトップに迷わず着いて検索する。
”福島のヤバい美容室”
ブラインドタッチで打てるようになるほど、
何万回も同じ文字を打ってきた。
「光希、見てよ」
ヤエコが私に言う。
パソコンを見ている時のヤエコは、
内緒話をするような顔をする。
「更新されてる」
私が覗いた液晶画面。
その男の人は、今度はパーマをかけていた。
色は茶色と緑が混ざった色。
「男のくせに…」
思わず口から出てしまった。
パーマに無性に腹が立った。
「この人、
無表情だよね。猫背だし。」
こんな顔して。
お店の看板なのに。
分かってんの?
もし、やりたくないんなら、
早く辞めれば良いのに。
「光希はわかってないね。」
「ん?」
「そこがかっこいいのに。」
ヤエコは、どうやらこの人に恋してるらしい。
写真しか見たことなくても、
恋できるんだ。
…良いな。
「服もさ、最初は酷かったけど、
今、かっこいいよね。」
え?どこが?逆にもっと酷くなってるよ。
黒いつなぎじゃん。
板金屋だよ、これじゃ。
ヤエコの目が、このセンスに慣れてきただけだ。
恋してるから、かっこよく見えるんだ。
顔をじっと見てみた。
髪型が違かったら…。
なんか、もっと似合う髪型があるのに絶対。
モデルだからこんなことになってるのかな。
「かわいそう…」
「え?」
思わずため息が出た。
赤の他人だし、
きっと私の後の人生で会うこともないのに。
服だって着たくて着てる服じゃないと思う。
前の写真より
少し痩せたように見える。
マウスで、バックナンバーをクリックした。
平成18年の写真が
ちょうどノーサンキューのTシャツと
まだら模様の髪の毛だった。
今より少し太ってるけど
変わらず無表情。
ずっと
やりたくないのにやってるんだろう。
こんなつまらない顔をした
モデルなんか知らない。
セブンティーンもノンノもミーナも
みんな笑ってて
みんなかわいいのに。
この人は何?
少し悲しい。
少し胸が痛い。
全く知らない人だけど。
斜め下を見ているし
口が何も喋りたくないって形。
一体、年はいくつなんだろう。
この人、ちゃんとした仕事してるのかな。
ああ、余計なお世話か。
「光希?」
ヤエコが心配そうに私を見てきた。
「モデルって、大変そうだね」
ヤエコは背が高いし、綺麗だから、
フリーペーパーの表紙を飾ったことがある。
「え、光希はかわいいからやってみたら?」
「背が小さいから、無縁の世界だよ」
「かわいいは認めるんだ?」
「100パーかわいいもん。」
「1000じゃないの?」
「それは、ヤエコ。」
「あれ、やだった。
私の写真使った
フリーペーパーの表紙に
君は1000パーセントって書いてあって…」
急に顔が赤くなった。
「なんのこっちゃだよね?」
「マジで、勘弁してほしいよ。」
ホームページを
トップ画面に戻した。
なりたいあなたになれる!
福島のヤバい美容室
センスのないキャッチコピー。
なりたい自分になってないモデルがいるじゃん。
「ヤエコ、もし、
福島に行ったら、この美容室行く?」
「行かない。髪、ヤバいことになりそう。」
「聖子ちゃんカット?」
「それだ」
2人でトップ画面を覗き込む。
「ねえ、このホームページ、
マジでヤバいよ。」
ヤエコが、下の方までスクロールした。
そこにはスタイリストの名前が載っていてさらに
「モデルの顔写真の横名前書いてある!
今まで気づかなかった」
女の子3人の名前
芹那、美波、愛花。
「男のモデルの名前…小野」
ヤエコが目を輝かせる。
なんで、この人だけ苗字?
「小野って言うんだね。」
名前も知らなかった人の苗字がわかって、
ヤエコの恋が、前に進んだ気がした。
「ねえ、ヤエコ、もし
福島行ってこの人に会ったらなんか言うの?」
「ファンですって言う。」
ファン…ね。
写真の名前の横には
平成18年〜
って小さく書いてある。
「で?」
「できれば握手したい」
この人は、握手する時も無表情なんだろうな。
知らんけど。
「光希は?なんか言うの?」
「お疲れ様かな。」
「何それ?」
「…それしか思い浮かばない。」
2人で歩く帰り道。
10月の紋別は雪が降る。
見上げれば高い空。
きっと福島にもつながる冷たい空。
私は、この一生の間に
”小野”さんと会うことがあるだろうか。
あの無表情はいつまで続くのか。
一生、無表情なんだろうか。
いつか会えたら言ってあげたい。
”三年もよく我慢してるね
お疲れ様”
って言ってあげたい。
私の思い過ごしで
はあ?って言われるかもしれないけど。
それでも良いんだ。
***
またしても書いてみました。
お題のAです。
ステキな絵のステキな企画を
またしてもこんな感じにしてしまいました。
清世さんのステキな企画の
おかげもあり、沢山の作品を目にすることが
できました。
noteってこんなにいろんな方が
いらっしゃるんですね。
ステキな出会いをありがとうございました。
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#10月はコート欲しいくらい寒いって聞いた
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