ファネルを科学する。コホートを駆使して事業解像度を高める「シン・ザ・モデル」
1. はじめに
どうも、すべての経済活動をデジタル化したい、LayerXの牧迫(@35_mki)です。法人支出管理SaaS「バクラク」シリーズを提供しているバクラク事業部で事業部長を務めております。
今回は、昨年2021年1月から提供している「バクラク」シリーズの裏側を「事業目線で」お伝えできればと思います。
タイトルが流行りに乗っかっただけ感があるですが(笑)、バクラク事業部も「THE MODEL」的なファンクションで成り立っており、先人の知見に積極的に載っからせて頂いております。
その中で、各チームの目標の持ち方やそもそも事業計画の策定・運用方法は試行錯誤しながらこの1年半運営してきており、その中で見えてきたエッセンスを公開してしまおう、という記事になっております。
「THE MODEL」をご存知の方に少しでも新しい実践的なエッセンスがあればと思い、「シン・ザ・モデル」というタイトルになっております。
本記事の前提
本記事は事業計画の策定にフォーカスを当てて解説していきます。
なお、LayerXにおける「事業計画」の考え方はこちらの記事を前提としています。
「THE MODEL」を既に読まれていることを前提とさせていただきますので「THE MODEL」自体の細かい説明は割愛します。また、マーケティング用語についても既知として細かい説明は割愛します。
筆者自身はB2CのPdM/新規事業立ち上げ・ウェブ/アプリマーケなどをバックグラウンドとし、昨年よりB2B SaaSに身をおいておりますので、B2C/B2Bの差分などは感じている部分も踏まえ主観込で記載するようにしています。
本記事ではわかりやすさを重視して細かい諸条件を割愛/捨象している箇所があります。詳細気になる方は筆者までご連絡ください。
2. 「事業解像度」を高める
2.1. 「事業解像度」とは
まず、事業解像度が高い状態とはどのような状態なのでしょうか。
「最終成果指標であるKGIに対し、KPIが的確に分解・設定され、KGIの達成・未達成がKPIをベースに説明可能になっている状態」と考えています。
最終成果指標の説明可能性が担保されていない状態は、「何に資本をいくら投下すると」「どれくらいのリターンがあるか」がわからない状態であり、蓋然性が低い状態であると言えます。解像度は蓋然性と置き換えても良いかと考えています。
2.2. 「事業解像度」をあげる「ファネル」と「コホート」
事業解像度をあげるために重要な概念は「ファネル」と「コホート」です。「ファネル」はユーザージャーニーであり中間指標を決める軸になります。「コホート」は各ファネル・ジャーニーの特定フェーズへの移行率(例:当日のサイト来訪者を100としたとき、翌日来訪者は40%、1週間後の来訪者は20%…等)を時間軸を加味して定量的に見える化するために用いることで事業解像度が上がります。
※ 「THE MODELと何が違うの?」と思った方もいらっしゃるかと思います。THE MODELでもファネルに応じたKPIが設定されておりますが、「時間軸の加味」までを実践的に言及されているケースは少ないかと感じています。ここを「コホートを用いてより解像度を上げよう」というのが「シン・ザ・モデル」と呼ぶものです。
バクラク事業では「ファネル」と「コホート」を意識した事業計画を策定することで、事業解像度を高めた上で「ぎりぎりにストレッチした状態」の計画の作成を実施しています。(※ 詳細後述)
以下、ファネルとコホートの概念を簡単に引用・紹介します。
(※ 既にご存知の方は読み飛ばしてください。)
■ ファネルとは
■ コホートとは
2.3. B2CとB2Bで比較する「ファネル」と「コホート」
話を具体的にわかりやすくするため、B2CとB2Bで「ファネル」と「コホート」はどのように変わるのかを見てみましょう。
ここでは、B2Cを「アプリ」ビジネス、B2Bを「SaaS」ビジネスを例にして比較してみます。
■ 「アプリ」ビジネスの特徴
結果がリアルタイムで測定可能、アプリインストールからアプリ起動後、その後のアクティビティはどのページを何時何分にどれくらい見たか、その上でどこをクリックしたか、何を検索したかまですべてのアクションログを可視化可能
利用開始初日のアクティビティだけでLTVが測定可能なレベルで定量化が可能であるがゆえに、ROASを意識した「定量ベースでのリアルタイムな意思決定」が可能
■ 「SaaS」ビジネスの特徴
結果がリアルタイムで出づらい&オフラインログもあるが故に定量の効果測定がB2Cと比べると難しい
例えば今日獲得したリードも、実際に商談化するまでには時差がある。
当日商談化するケースももちろんありますが、大抵の場合、リードからナーチャリングを経て商談化し成約するまでいくつかのハードルがあり。ファネルが長い。
それぞれファネル移行の時間軸は、数日から場合によっては数ヶ月の時差があるケースもある
■ B2CとB2Bの「ファネルの差」
上述の通り、アプリとSaaSではビジネス特性が全く異なります。
ファネルの差を簡単に示すと下図のようになります。
傾向として、B2Bの方がファネルが多く、各ファネルの移行期間が長い傾向にあるといえます。以下、実際どれくらい違うのかを簡単に解説します。
(1) アプリの場合
(2) SaaSの場合
このように、アプリの場合インストールから1〜2日である程度結果が出ますが、SaaSの場合リードから商談・成約まで数日〜数ヶ月を要するというのが大きな差としてわかるかと思います。
つまりB2B/SaaSビジネスにおいては、「リード→商談」や「商談→成約」など各ファネル移行ごとに時差があることを意識した事業計画になっていない場合、「事業解像度が極めて粗い」事業計画であると考えられます。
[コラム] 「獲得リードからの商談化率」の罠
B2B・SaaSビジネスにおいて商談数目標を立てる場合、「今月獲得リードは1,000件で商談化は10%だから今月の商談数は100件だ」と安直な計算をすると、商談数目標が簡単に未達になります。そもそも今月獲得したリードが今月商談化するのは後続のファネルを考えれば、未ナーチャリングのため10%ではなく5%かもしれません。この5%がナーチャリングを通じて半年かけて10%まで伸びていくモデルの可能性が高いです。その場合、当月の獲得リードだけ追っていても商談数の予測は建てられず、前月以前の獲得リードからも時間軸を考慮した上での商談転換率を考慮する必要があります。ここでコホートが威力を発揮します。
以下はコホートではないですが、コホートを利用して毎月の商談数を試算したの計算結果グラフイメージです。
2.4. リード獲得チャネルごとに「商談化速度の差」を意識する
上述の通り、SaaSではリード化から商談までのファネル転換スピードがアプリビジネスに比べると長くなります。
更に厄介なのが、「リードの獲得チャネル毎に商談化スピード・商談化率が異なる」という点です。
例えば、ウェブサイトのお問い合わせフォームから「デモを見たい」とお問い合わせいただくような方は製品導入自体の熱量が高まっていることから即商談化する傾向にあります。
一方、例えば東京ビックサイトや幕張メッセなどで開催されるオフラインの展示会で獲得するリードは、サービスの導入という目的意識を持ってブースに訪れているケースは少ないため、意向にバラツキが大きく、時間をかけて製品理解を深めていくようなナーチャリングが必要となり、商談化までの時間がかかります。
このような差分を意識してチャネル戦略を立てなければ、目標の商談数を達成することができません。
どのチャネルからどれだけのリード獲得を行うか、で商談数が一定程度は規定されてしまいますので、例えば「展示会で1,000リード獲得したぞ!」という状況になったとしても短期での商談化率がそこまで高くない傾向だとすると商談数がショートしてしまう可能性が高まります。
3. 「バクラク流」事業計画
長々と前置きを書いてきましたがようやく本題です。
ここでは、「利用顧客数」をどのようにモデル化しているかを「ファネル」と「コホート」を用いながら説明します。
※ 単価やExpansionの話は今回割愛します
ざっくりした塊としては以下となります。
商談数については、図中①の「リード → 商談化コホート」を、成約数と以降の継続率については図中②の「商談→成約→チャーンコホート」を用いて作成しています。
3.1. リード → 商談化コホートから商談数を算出する
作り方としてはシンプルで、
「チャネルごとの投下予算」と「チャネルごとのリードCPA」をベースに「チャネル別リード獲得数」を算出し、そこに「チャネルごとの商談化コホート」をかけ合わせて毎月の「商談数」を算出します。
まずは自社の過去データから「チャネルごとの商談化コホート」をモデル化し算出します。以下のようなグラフになります。
上記のような商談化率コホートと毎月の予算投下・リード獲得数を用いて以下のように商談数を予測します。
これにより商談数の予測が可能になります。
3.2. 商談数から成約数・継続利用社数をコホートを使って算出する
商談数の算出が終わればあとはほぼ同じです。成約・継続利用率のコホートを用いて成約数・継続利用社数を算出します。
以下のイメージです。
これに単価をかけあわせるとトップラインの指標(MRR・ARRなど)が算出できます。
4. おわりに
いかがでしたでしょうか。
本記事ではわかりやすさを重視して細かい諸条件を割愛/捨象しましたが、詳細が気になる方はぜひご連絡ください。
また、今回は新規顧客獲得に主眼を当てて記事化しましたが、クロスセルでもコホートをベースにExpansionを予測していたり、あるいは生産性指標のようなものコホートを利用して算出しておりますので、このあたりはまた別の機会にということで。
※ 2022.07.08追記
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