人事!大事!宝物!〜会社辞めたぜ〜

3年半お世話になったベンチャー企業を辞めた。
あの時、殺風景なマンションの一室で、Wi-Fiすらろくに繋がっていなくても、私は希望に満ち溢れていた。
地方出身者の私にとって「渋谷」は憧れの場所だった。蒸し暑い毎朝の渋谷駅のホーム、渋谷駅までの定期券、平日朝のスクランブル交差点、都市開発で変わっていく街並み、そこで働くだけで夢や言語化できないキラキラが手に入った気がしていた。

カリスマ社長と、真っ白なキャンパス。毎日変わる事業計画。ヤバいトラブル。ただの友達のような、でも肩を組むと円陣を作ってくれる仲間。定時後のダラっとした時間。そこに流れる阿吽の呼吸。全てが心地良かった。

事業が軌道に乗り始めて、採用にも力を入れ出して、役職や部署ができちゃったりして。徐々に「まとまり」が会社になっていった。
そして遂には「このマンションを出る」と社長が言った。憧れのワンフロア。
社員数はどんどん増えていって、物理的にも心理的にも社長の声がどんどん聞こえづらくなっていった。

それでも社員全員の心を一つにまとめたくて、私はとっても無理をした。
社長が言っていることを翻訳して、声高く伝える。伝わらない人には1on1でフォローをする。でも言っていることは毎日変わる。
逆に社員からの声をまとめて、社長に伝える。思ったことを言いたい放題言ってくる人もいる。
伝言ゲームは難易度を増していき、社長はついに伝えることを放棄した。社員たちも「ならば」と勝手に行動する人が増えていった。

企業理念・ミッション・ビジョン・バリュー、いつまで経っても「昔」のままだった。事業は成長しているから問題ないよね?そんなもの考える暇なんてないよ!というのがご意見。
古いカーナビのまま道なき道を走っている気分だった。そのうち、社員が「自分も会社もどこを走っているのかわからない」と退職していくようになった。

私は、人事として悲しくて情けなくて、辞めていく人たちに「あなたのことが大切だった」と丁寧に伝えた。時に涙し、時に彼らにハグした。繰り返していくうちに、「人事の私は誰にも大切にされていない」ことに気づいた。
退職者の多さに社長はすこぶる苛立っていて、今更「私を大事にしてください」「私とゆっくり話してほしい」「私のことを知ってほしい」とは言えなかった。

『私が辞めるかも』という伝言は、図らずもあっさりと社長に届いてしまった。社長は当然怒った。「辞めるなんてそんな会話、今までなかった」と。(その時私たちはそもそもほぼ会話していなかった)
私だって今までの鬱憤を刃にして振りかざすことができたけど、結局「何も言わない」選択をした。

社長はキレ散らかして、特に引き止められることなく、私の退職処理は滞りなく完了した。
熟年夫婦が離婚する時のような、あっけない去り際だった。

新しい職場には、とても自分が大事にされていると感じる。
そして自分は「大事にされている自分」が好きで大切だと感じる。

会社が存在する意味・会社が社会に与えるミッション・そしてプロダクトという地図を手に入れて、私は人事として健全に物事を考えたり、進めたり、伝えたりすることができる。

人事の心理的安全性は高くて、ちょっとワガママな方が良い。
コーポレート側だからといって誰かの言いなりになって我慢することはない。
周りに幸せにしてもらっているご機嫌な人事が、幸せな会社を作っていくと思う。

この記事が参加している募集