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魚を宇宙で育てる? 食料も酸素も自給自足する循環型養殖 @サイエンスZERO (元教授、定年退職325日目)
サイエンス ZERO が迫る: 月面植物工場の次は、いよいよ宇宙での魚養殖に挑戦!
先日のヒラメ養殖の note(2/18) 記事内で予告したように、今回は NHK の「サイエンス ZERO」から宇宙における魚養殖の取り組みを紹介します(下写真)。以前にも同番組では「スマート農業」の一環として、月面植物工場についての特集がありました (note, 2/11)。真空状態の月面では、直接農業を行うことは不可能ですが、基地内に植物工場を設けることで栽培が可能になるという内容でした。このような未来を描く挑戦は、映画『オデッセイ』における火星でのジャガイモ栽培の可能性をも連想させます。しかし、今回議論する宇宙での養殖は、これら以上に困難な挑戦が予想されます。宇宙空間では水や酸素が不足しており、然るべき循環システムを構築しなければ、魚を育てることはおろか、生命を維持するのも容易ではありません。ただ、もし成功すれば、宇宙食として良質なタンパク質を提供できるようになるので、私は興味深く番組を視聴しました。
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東京海洋大学とJAXAによる宇宙養殖の取り組み
この壮大な宇宙養殖プロジェクトを成功へと導くかもしれない技術を紹介してくれたのは、東京海洋大学の遠藤さんです。彼は JAXA とも連携し、宇宙で養殖が可能になるよう積極的に取り組んでいます。(下写真もどうぞ)
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<追記> 千葉県館山市の東京海洋大学の研究施設は、かつて私が勤務していた大学の合宿所の近くにあり頻繁に横を通りましたが、壮大な太平洋を一望できる房総半島の南端にあり、まさに海洋研究に最適な環境です。
「魚に自給自足をしてもらう」プロジェクトの全貌
現在、宇宙での長期滞在を前提にした探査プロジェクトが進行中であり、その中での大きな課題の一つが食料の安定供給です。今回の宇宙養殖でのテーマは「魚に自給自足をしてもらう」という斬新なプロジェクトです。対象となっているのは、飼育が容易で世界各地で養殖されている淡水魚「ティラピア」です。このプロジェクトでは、ティラピアの餌として「スピルリナ」と呼ばれる藻類を利用しています。この藻類は、タンパク質をはじめ 50 種類以上の豊富な栄養素を含んでおり、これだけでティラピアは健やかに成長することができるそうです。(下写真もどうぞ)
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自給自足に必要な、「人工的な生態系の循環を作り出す」ポイントを以下にまとめます
1. ティラピアの水槽水を利用したスピルリナの培養
ティラピアの水槽から水を採取し、緑色のスピルリナを含む水と混ぜ合わせます。2週間ほどこの状態を保つと、スピルリナの緑色が濃くなり、培養が進んでいることが確認されました。魚の排泄物にはスピルリナの成長に必要なリンや窒素が含まれており、これらを栄養源にスピルリナがどんどん増殖します。(タイトル写真、下写真もどうぞ:注1)
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2. スピルリナが排泄物を処理しつつ養分を供給
スピルリナは魚の排泄物を利用して増殖し、またその一部を餌としてティラピアに供給することができます。特に興味深いのは、排泄物中の有毒物質をスピルリナが分解吸収し、結果として水を浄化する作用があることです。この循環により培養したスピルリナをエサに、ティラピアは健康に成長しました。(下写真もどうぞ)
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3. 二酸化炭素と酸素の交換による生態系の循環
魚が水中に放出する二酸化炭素は、スピルリナの光合成によって酸素へと変換されます(上写真右)。これにより、1から3までのプロセスが完結すると、完全な循環型生態系が構築されます。遠藤さんは、このシステムを無人で宇宙空間でも稼働できる装置として実用化したいと考えています(下写真)。
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この野心的なプロジェクトを通じて、ティラピアを宇宙で人間が食すことができることを目指しています。番組内では、実際に循環型システムで育てられたティラピアの刺身が提供され、それを試食した MC は、淡白でしっかりとした歯ごたえがあり、鯛のようで美味しいと感想を述べていました(下写真)。
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循環養殖の未来: 地球上の山や砂漠へと広がる可能性も
循環養殖技術の大きな利点には、宇宙での排水を極力抑え、水を循環させることで環境負荷を大幅に削減できる点があります。この技術が完全に実現すれば、地球上でも、水源から離れた山岳地帯や砂漠で養殖が可能になるかもしれません。実際、海外でも類似の研究が進められているとのことです。今回の番組では「養殖 × 科学」の最前線として特集されましたが、私としてはこれまで知らなかった最新の科学技術に触れることができ、非常に感激しました。では、また。
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注1:NHK Eテレ「サイエンス ZERO」の「養殖 x 科学の最前線:宇宙養殖」より